ちょいSS
2019 / 02 / 09 ( Sat ) その日の典礼のあと、教会から家に帰りついたのは夕方近くだった。狙ってそうなったわけではなく、気が付かないうちに影が伸びるような時刻になっていた。 教団から除名されてなお、かつて聖女であったミスリア・ノイラートには聖なる気を介して人を癒す力が多少なりとも残っている。そうと知って相談に来る者の相手を、今までしていたのだ。「もうこんな時間……おなか空いてませんか?」 共に行動していた相方に問う。黒髪と色素の濃い肌が印象的な長身の男は、手荷物を長椅子に下ろしながら首を横に振った。 すると特に脈絡もなく麻のシャツを豪快に脱いで、裾で首回りの汗を乱暴に拭いだす。 「そういえば皆さんの片づけを手伝ってくれていたそうですね。お疲れ様です」 今日は午後に差し掛かってから特に暑かったのだから、汗が気持ち悪くなっていたのだろうとミスリアは察した。 「手伝った礼に食い物をもらった」 男は顎で持ち帰った荷物の方を示す。 帰路を歩いていた時には目に入らなかったが、いつの間にか、朝に家を出た時になかった袋が増えている。中身をあらためると、温めればすぐに食べられるような品物ばかりだった。 「今夜はこれで楽に夕食の用意ができそうです」 「飯の前に水を浴びてくる」 バサリ、脱ぎ捨てられた服が音を立てて洗濯籠の上に落ちた。洗濯物はあまり溜まっていないが、早めに洗わないと臭いがしつこくつくかも――内心でミスリアは苦笑する。 「お湯を沸かさなくて大丈夫ですか?」 「別に井戸水でいい」 「わかりました」 眼前を横切る素肌に向かって手を伸ばしたのは、無意識からだった。そして無数に目につく傷痕の中で腹部のひとつに触れたのは、ちょうどそこがミスリアの肩ほどの高さにあったからだった。 黒ずんだ窪み。本人ですら、どうやってついたのか忘れていそうなほど古い傷痕である。 「私が、死に別れるまでに貴方のためにしてやれることは、そう多くないのでしょうけど」 「…………」 「明日の食事にありつけるかわからない生活や、こういった生傷が増えるような生活をしなくていいように、寄り添うことはできると思います。いえ、そうしたいです。私が」 伸ばした指を包む温もりがあった。 出会った当時とほとんど変わらない、大きくて武骨な手。汗ばんでいるのも気にならないほどの心地よさ。 「それでいい。それは、お前にしかできない」 「はい」 彼は少しかがみこんで、掴んだ手を口元に引き寄せた。かかる吐息が熱いが、やはり気にならない。 あの、とミスリアは首を少しばかり傾げて切り出した。 「お背中流しましょうか」 ああ、と答えたゲズゥは微かに笑っていた。 「頼んだ」 *この時点でのゲズゥは既に働き口を見つけています。教会にも毎週顔を出す、立派に社会の一員……。ていうか昔は他人と一緒に食事もしなかったんだよなぁ、となんかしみじみ。 |
3-3. a
2019 / 02 / 04 ( Mon ) 出会ったのは、水田の近くでだった。 ミズチがその地に流れ着いて日が浅かったため、近辺の民が使う言語はまだ理解できなかった。ニンゲンの生活習慣、表情の機微などに興味もなかったので、何のために捕獲されたのか、当初は見当がつかなかったものだ。後になって聞いた話、ラムは害獣退治を押し付けられていたらしい。むやみにどうこうするよりは近づかない方が懸命だというのに、兄や姉たちはおそらく末弟をいじめて楽しんでいたのだろう。本人はそう推測していた。 小蛇の姿で昼寝をしていた。 つまみ上げる指の圧力と持ち上げられる感覚に意識が呼び覚まされ、しばらく空中を移動してから再び地面に下ろされた。元居た場所を振り返り、何をされたのだろうと不思議に思っていると、幼体のニンゲンの視線に気が付いた。 ニンゲンは目と鼻から水を流していた。しきりに口から言葉を発していたようだが、何を言っているのかはわからなかった。脱兎のごとくニンゲンは走り去った。 それだけだった。それだけの関わりで相手に興味をおぼえ、ついでに体臭もおぼえたので、探し出して観察することにした。 次に接触したのは果物の樹の下でだった。 果物の外皮は赤く分厚く、中の実は白かった。ミズチは自らのストーキングの標的と定めた小さいニンゲンが地面に座って果物の皮をむいていたのをしばらく観察した。あまりに真剣に手元を睨んで、あふれ出た汁をさも美味しそうに舐めとっていたので、自分も食べてみたら美味しいだろうかとふとミズチは考えた。 同じ姿になれば同じようにして食べられる。当時はニンゲンに化けるのがまだ不得手だったが、この個体は既に何日も眺めてきたのだから、概容はわかったつもりでいた。 そこに相手を驚かせようと意図はなかった。なかったのだが、そういう結果になった。 ニンゲンは悲鳴を上げてやはり走り去ってしまった。声をかけようとしたものの「うあ……か……」という具合に言葉を成すには至らなかった。 仕方なく、皮が半分むかれた果物を拾った。だが指を動かすことをはじめ何もかもが不慣れで、うまく口にすることができなかった。 あのニンゲンにコツを訊かねばなるまい。次に接近する時までにもっと完全な声帯をつくり上げて、ついでに言葉を習得した方がいいだろう――。 * 「のんびりだね」 途中まで聞いた唯美子の感想が布団の中に響く。 他には、相手と同じ姿に化けて出たら驚かれるのも無理ないとも思ったが、これには本人も後に気付いたであろうから指摘しないでいた。 「そうかあ? なにが」 「なんだか思ってたよりゆっくり知り合ったんだねって思って。長命だとそんなペースが普通なのかな。初めての異種間交流だから慎重になっちゃったり?」 比較対象はあくまでナガメと自分との出会いになってしまうが、それに比べると、のんびりとしている。 「慎重とかじゃなくて、まあ、ひまだったし。いそぐ理由なかったし」 「わたしと会った時はそういえば言葉の壁がなかったね」 思い返せば、最初から彼は日本語がペラペラだった。数百年前とでは状況が違ったのだろう――そう考えた時点で、素朴な疑問が沸く。 「ラムさんはもともとどこの国から来たの。村人は南蛮って言ってたと思うけど……タイ? フィリピン?」 「さー。ニンゲンがつくった線引きなんてすぐズレるし……位置的にベトナムだったんじゃね。あいつ、クニでも『いほーじん』だった気もするけど」 「う、うん?」 生まれ故郷でも異邦人というのは、どういうことだろうか。そのうち腑に落ちるものかなと思い、再び唯美子は聞き役に徹した。 |
らくがき雑多
2019 / 01 / 28 ( Mon ) |
3-2. f
2019 / 01 / 26 ( Sat ) 「あったかいフトンってやつで眠ってみたいとおもったことならある。そういうのはアリか」
「いいね! あったかい布団、いいと思うよ」 唯美子は手を叩いて賛成した。手軽に叶えてやれるリクエストだし、新しいものを発見する感情は、どんなにささやかな挑戦からも得られるだろう。 「……でも何百年も生きてるのに温かい布団が未体験って、ちょっと信じられないね」 「それはほら」 「!?」 少年は一瞬で唯美子の腕の中に飛び込んでくる。勢い余って後ろに倒れると、まるで出番を待ち受けていたかのように布団一式がそっと受け止めてくれた。 しゅふん、と微かな音を伴い、ふたりして沈み込む。 腹の上にかかった重みに戸惑った。水辺を思い起こさせるほのかな匂い。小柄な体は、相変わらずぬるま湯といった程度のぬくもりだ。 「じぶんじゃほとんど産熱しないから。ただフトンにくるまってもあったかくなんねーんだな」 「擬態でも一応、体温はあるんだよね」 「恒温動物のまねしてな。たべたものを熱に変えて血を皮膚にめぐらせて……燃費がわるくてやってらんね」 哺乳類ならば内臓も一定の体温で保たなければ生きていけないはずだが、そのぶん一日に何度も食事を採らなければならない。ナガメの食事頻度では人間の基準である三十六℃に届かないのもうなずける。 「えっと、じゃあ一緒にくるまってみる? わたしの体温でよければおすそ分けするよ」 おそるおそる言い出してみた。 みる、と言って唯美子の胸にうずくまっていた頭がひょっこり持ち上がる。 (わるい顔) 茶色の瞳が光ったように見えたのは、天井の丸型蛍光灯を反射したからか。 「なんでかな。誘導された気分だよ」 「へへ」 軽やかで気持ちのいい笑い声が返ってきた。 いざ消灯する時間になり布団の中で腹這いになって肘を立てていると、浴衣を着たままのナガメ少年が隣に潜り込んできた。闇の中でスマートフォンをいじる唯美子をじっと見つめる。 観察されている、ふとそう意識した。 小学生がダンゴムシにするように、生物学者が研究対象にするように。微かに黄色の輪を描いて光った双眸は、画面ではなく唯美子自身の動作を追っていた。 気になるのでやめてほしいとも何がそんなに面白いのとも訊けなかった。温かみをまるで感じさせない無機質な視線に気圧された。何かを探しているようだとも思った。 誰かに送ろうと思っていたはずの他愛ない言葉を忘れてしまい、画面の上で指を宙におどらせる。 ――ヘンな感じ……。 いつかの彼も、こんな風に至近距離から覗き込まれたことがあったのだろうか。知りたい。知りたいが、どう切り出せばいいかがわからない。 「ゆみさー」 「はいっ!?」 耳にかかった息に飛び上がった。考え込んでいて、接近されたことにまったく気が付かなかった。 「ずっとなんか言いたそうにしてるけど、なに」 こちらが言葉を選ぼうとしたのに対してなんてダイレクトな訊き方か。数秒ほど唖然となったが、気を取り直して咳払いした。 「織元さんにね。見せてもらったというか見せられたというか、不可抗力だったんだけどわたしも拒んだわけではなく……あの」 喋り始めてから段々としどろもどろになる。ため息をついて、スマホを枕元に置いた。 画面を消し忘れたため、ブルーライトが暗闇を頼りなく照らし上げている。 冷ややかな青い光が不思議と少年によく似合う。 ヒトではないモノを相手取るのがどういうことか、何度考えても自分はやはり理解できないような気がする。けれど――ナガメ単体を理解したいと願うのは、本心だ。 「きみの過去を少し見たよ」 「へー」 瞬きすらない、平淡な応答。 「驚かないんだね。頭の中? を覗かれるのって、嫌な感じがしないの」 「みられてヤなもんをわざわざ狸にやらねーし」 「な、なるほど」 あっけらかんとしすぎていないか。唯美子は拍子抜けした。 「んで、それがどーかしたか」 「あのね。できればナガメの口から聞きたいんだ……ラムさんって、どんなひとだった? きみが一番使いまわしてるふたつの姿は、あのひとを模したんだよね……?」 質問の内容にも驚いた様子はなかったが、答えるまでに意外なほど長い間があった。やがて、スマホの明かりがフッと消えた。 どんなやつかー、と少年は短く唸る。 「いつもは押しが弱いくせに、しょーもないとこでガンコ。潔癖? そんで昔はなきむしだったな」 「うん」 彼の言う「昔」がいつを指すのかよく掴めなかったが、唯美子は相槌を返した。 「いっぱいあそんでくれた。いいやつだった」掛け布団を頭から被ったのか、布が擦れる音の後、言葉が途中からくぐもって聴こえる。「もっと、あそべたのに」 言葉尻に向かって早口になっていた。 あのひとの結末は、思っていた通り、明るく幸福ではなかったのだと察する。 (どんなに経ってようと辛いものは辛いんだ) 嫌なことを思い出させた罪悪感に、とにかく慰めなくてはと慌てる。逡巡してから、布団の盛り上がりにそっと手の平をのせることにした。 一転して、気が付けば布団の中に引きずり込まれていた。 己の右手首の方を見つめた。暗がりで何も見えないが、確かに巻き付いたぬくみが――細い指が、あった。 「もっときくか」 「きみが話したい分だけ、わたしは聞くよ」 それから続いた間が数秒だったのか数分だったのか、正確なところはわからない。ただその間ずっと、小さな手から力が抜けることはなかった。 「…………ハカを」 「え?」 ハカオとは何だろうと首を傾げると、ナガメは静かに続けた。 「すげードラマじゃあないし、たぶん特別でもなんでねーんだけど。おいらが――」 ――ニンゲンに墓を建ててやった話をしよう。 亀の歩みで申し訳ない…。 3話でお会いしましょう! |
3-2. e
2019 / 01 / 15 ( Tue ) 「どうやって」
「誰かに教えてもらいなさい」 織元はそっけなく答えた。立候補をするつもりはないようだ。打って変わって、笑顔で唯美子に向き直る。 「すぐに食事をお持ちします。食べられないものがありましたら、教えてください」 「ありがとうございます。食べられないものはたぶんないです」 「わかりました。ではしばらくお待ちください」 彼は会釈してその場を後にした。 (至れり尽くせり……) 唯美子ひとりのみのためのルームサービスとなれば、いよいよ先ほどの懸念が現実味を帯びてくる――彼らには食卓を囲う習慣もなければ、その必要もないということだろう。 ついでに言って、部屋の隅に用意された布団は一組だけだった。 (そこに面白い意味は一切ないんだろうけど) ドラマなどで旅館のスタッフが「あとは若いお二人で」と気を利かせるのとはわけが違う。ナガメはどんな場所でも寝るので布団を用意しなくてもいいだけの話だ。彼は寝心地の良し悪しに頓着したためしがない。 むろん、知り合ってこれまでの月日、同衾した回数はゼロである。 荷物を置いて座布団に腰を落ち着かせると、静まり返った空気が気になってくる。この家にはほとんど生命の気配が無いような気さえする。 「織元さんの家って、ほかに住んでるひといないの」 「僕《しもべ》ならいるぜ。ふだん地中に潜ってるみたいだから姿をみかけたことねーけど」 手元の本を未だ睨みつけたナガメが答える。 (地中かぁ。盲点だったな) おもむろに足元に目線を落とした。白い靴下をはいた己の足の下に、畳が敷かれた床よりずっと下にも、未知の世界が広がっているという。 「『自分の知る世界が、世界のすべてではない』」 「んー? なんだそれ」 「どこかで聞いた言葉……意味はたぶん、自分が日頃意識している世界以上に世界は広いんだって感じじゃないかな。わたしにとってのナガメたちは、まさに知らない世界の有無を意識させる、ふしぎな存在だよ」 「しらないと、どうなんだ」 ――こわいよ ひと呼吸の間をかけて迷ったが、結局言い出せなかった。 ひゅるり、冷たく湿った風が部屋を吹き抜ける。何かに追い立てられたように、二匹のトンボが慌ただしく飛び込んできた。窓が開け放たれている点に、唯美子はその時はじめて気が回った。 寒いから窓を閉めてもいいかと訊ねる。どーぞー、と興味なさげな返事があった。 夕食を待つ間が手持ち無沙汰だ。床に座ってスマホを弄っていると、衣擦れの音がした。 ナガメが本を持ったままごろごろ回転している。よく目が回らないものだ――漏れそうになる笑いをこらえて、声をかける。 「ひらがなとカタカナ、わたしでよければ教えようか」 回転が止まった。かと思ったら小さな背中が反転した。転がりすぎたのだろう、いつしか紺色の浴衣が大きくはだけてしまっている。そこから覗く胸元の皮膚は鱗に覆われていた。一日に何度か変化すると段々と粗が目立つようになるものらしい。 浴衣だけでも直してやりたいが、訝しげに細められた双眸に躊躇した。 「なんで? ゆみ、別にひまじゃねーんじゃん」 「暇かどうかじゃなくて、わたしはきみが日本語が読めるようになったらいいなって」 「なんで?」 同じ質問が繰り返された。どう答えたものか、唯美子はやや首を傾げて言葉を探した。 「知らない世界が開けた時の感動を、味わってほしいから……? そういうのって、傲慢かな」 「ぬー」 少年は本を閉じて四つん這いから起き上がる。分厚い小説のタイトルは「籠城の果てに慟哭」だった。いったい織元は彼に何を読ませようとしているのか。 「昔、ナガメがわたしにひとつの感情を手放してみろって言ったよね。その逆かな。いろんな気持ちを取り込んでみたら、面白いんじゃないかな」 |
3-2. d
2019 / 01 / 06 ( Sun ) 「戦利品の提示をどうぞ」
「おう」 促され、少女は胸元に手を突っ込んだ。そんな真似をしたら襟元が伸びてしまう――唯美子は制止の声を出しそうになり、思いとどまる。 (ほとんどの服も擬態だって言ってたっけ……って、わっ!) ブラウスの下からにゅっと現れたのは、干からびた手に似た何かだった。正直、見つめていて気分の良いものではない。だというのに美丈夫もまた、何でもなさそうに干からびた手首を着物の内にしまっていく。 「確かに受け取りました、これにて依頼完了とします。ご苦労様でした。報酬は食糧と金品のどちらにしますか」 「んじゃ、今回は金目のもん」 「了承しました」 ビジネスめいた会話が終わると、こちらに気付いて、ナガメが軽く手を振りながら近づいてきた。かと思えば怪訝そうに片眉を捻った。 「なんでゆみ、泣きそーな顔してんだ」 「え?」 無自覚のうちにどんな顔をしていたのか、確認のため己の表情筋に手を触れてみる。それでもよくわからなかった。泣きそうと言われても泣いていたわけでもないらしく、頬は濡れていない。 もしも悲しい顔をしていたとすれば、きっと先ほどまでに辿っていた過去の像を想ってのことだろう。そのことを詳しく語るのは憚られる。 「ところで」音もなく織元が傍まで歩み寄ってきた。「風呂を沸かしてあります。お使いになりますね? いっそのこと、ふたり一緒に入りますか」 「それはだめ!」 半ば条件反射で否定するも、はたとなって現在のナガメをまじまじと見上げる。見られている当人は、きょとんとした表情で長い睫毛を上下させた。 どこをどう見ても女性でしかない。では何故、揃って風呂に入るのがだめなのか。彼の中身を異性と意識しての反応かもしれないが、そこでもまた疑問が沸き起こる。この異形のモノは異性と思っていいのだろうか。今更ながら、蛇であった頃に雄だったと明言されたことがない。 「……まさか小さい頃に一緒に入ったことがあったりする?」 「じょーだん。湯はむかしから苦手だ」 滑らかそうな女子の手をひらひらと振って、ナガメはあっさり否定した。 「そうなの? わたしのアパートで入ってるのはお湯じゃないの」 「冷水にきまってんじゃん」 「えぇ……寒いよ」 想像してみたら遅れて身震いがやってきた。どこまでも彼は唯美子の当たり前の感覚とかけ離れている。だがひそかに、一緒に水を浴びたことがないというその答えに安堵した。 気が抜けたらふいにくしゃみの衝動に襲われた。風邪をひいてしまう前に、風呂には入っておくべきだ。 「お言葉に甘えて、わたしは浸かってくるかな」 店の裏に居住スペースがあるらしく、奥に案内された。店を後にする時に目に入ったアナログ調の壁の時計は既に七時を回っている。夕食はいつも何時くらいなのかと問うと、「あなたの望んだ時が食事時です」などと曖昧な答えが返ってきた。彼もナガメ同様、毎日食べなくても平気なのだろうか。 まとまりのない思考で風呂に入り、芯まで温まって、ぽかぽかとした気分で上がった。心地良い眠気を迎えつつ、持参していた寝間着に着替えた。 廊下に出ると、壁に背をあずけて織元が待っていた。縦縞の入った揃いの浴衣と羽織を纏い、髪をゆるく三つ編みにしている。 「ヒヨリ嬢の古い衣服を見つけたんです。背丈もあまり違わないようですし、差し上げます」 「ありがとうございます。おばあちゃんの服、持っててくれたんですね」 丁寧に折りたたまれた着物の束を受け取る。 「元より、返す機会を逃したもので」織元は薄明かりに艶美な笑みを浮かべた。「では客室に案内いたします」 彼の足取りに応じて、ぎ、と一度だけ床が軋んだ。 家に漂う木材の匂いにどこか懐かしさをおぼえながら、唯美子は廊下を進んだ。あとは柔らかい布団に飛び込めれば言うことなしである。 織元の手がスッと襖を開ける。明るくなった視界に慣れようと、唯美子は目元に手をかざした。 部屋の中には先客がいた。畳の上に仰向けに寝転がる子供は、分厚い本を手に持って唸っていた。 その少年の姿を認めて、唯美子の心臓は小さく跳ねた。 「いかがですか、その小説。結構面白いでしょう」 「んにゃ、ぜんぜん読めねー」 「いい加減、平仮名と片仮名をおぼえたらどうです」 |
2018年に読んだ本まとめ
2019 / 01 / 01 ( Tue ) あけましておめでとうございます! (・∀・)
今年もどうぞよろしくお願いします。 さてタイトルの通りですが、ネタバレ感想もあるのでお気を付けください。 2018年の読書メーター 読んだ本の数:51 読んだページ数:12695 ナイス数:397 ![]() 怖いというよりは奇怪な(&気色悪い)話ばかりだった感想。奇抜なアイデアにぐいぐい引き込まれはしたが、どれも破滅に向かってスッと終わって印象に残るのかと聞かれればそうでもない気がしている(後味が残らないのはある意味いいことかもしれない)。何故「姉」というキーワードを使ったのか、普通の姉は村の中でどういう扱いになるのかが謎だが…それにしても全篇を通して「女」の立場が良くないw 読了日:12月29日 著者:遠藤 徹 ![]() どこか水車館を思わせる屋敷と少女の設定。地獄勢が積極的に事件に絡んできたのにはびっくり…それはアリなのだろうか。今回、裏にあった想いが人数と共に複雑化してて、ついていけなかった感も否めない。でも看病パートなど、青児と皓が順調に仲良くなっているのは嬉しい。 読了日:12月15日 著者:路生 よる ![]() この作者様方、「重い運命を背負った少女」と「ストイックな武士」の組み合わせを最高にクールに書きよる。今回登場したハインリッヒ様のいとこ様も素敵で、ますます目が離せない。そしておじいちゃん。うん。うん……。 読了日:11月23日 著者:DOUBLEーS ![]() 主軸にあった敵キャラの背景や謎は、個人的に一巻をはるかにしのぐ引力を持っていたように思う。新キャラのアスカはいい味だし、イリスは最初好きになれるか不安だったが、クライマックスに向けてどんどん好感度が上がっていった。イズマとの師弟の絡みが特に良い。予想していた以上のノーマンの活躍に大満足。おっさんが魅力的な作品である。しかし、ねがいを集めるカラクリは誰が作ったのでしょうねェ…。 読了日:11月14日 著者:蕗字 歩 ![]() 分類はキャラ文芸なのだろうか、話も世界もスラっと入り込んできて気が付けば終わっていた。「めちゃくちゃ好きー!」という感じではないが、それなりに先が気になり、謎解きや怪異が面白かった。続きも買う。 読了日:10月20日 著者:路生 よる ![]() 面白かった。節目の巻って感じ。世界説明をされても目が滑った一巻に比べ、今度は話が進みながらの説明だったのですんなり入ってきた。キリヒトは忍者の里の子か何かと思ってたが、まさかそうくるとは…機械的に実行する彼と少年の彼の危ういバランスが、実に好きだ。うん、好きだ。完全な闇の中に二人しかいないとか、手から水を飲むとか、えr…萌えシチュエーションである。ラストシーンの夜がきれい。余談、名前が出て来た時点で死亡フラグかと思ったらいい意味で裏切られた。 読了日:09月24日 著者:高田 大介 ![]() ウェブはかなり序盤で読む手を止めちゃってたので、電子書籍化に際して購読。迫力あるバトルシーンや、縦横無尽に広がる世界がおいしい。力がそこにあるから人は狂うのか、狂った先に力があっただけなのか…。ただひとつ消化しきれなかったのは主人公の恋愛観、複数の女性の間ふらりふらりと心が飛んでるのはこの世界の基準的にアリっぽい(?)けど、囚われの女を救いに行くのに手伝ってくれる女にドギマギして…うーん。そも、シオンとは色恋じゃなく戦友でいてほしかったような気も(複雑)イズマさんが好きなので続きも追っていきたいところ。 読了日:09月19日 著者:蕗字 歩 ![]() 一巻に引き続き派手なアクションはもちろん、人間らしい表情とか、必死に生きる人とか、心を打つところ多し。しかしこの二巻に抱いた一番強い感想:こわい 読了日:09月19日 著者:マツリ ![]() これは安易に感想を書けない本。丁寧に、繊細に、心に呼びかけるものがあった。読み終わったら他の人も読めるように手放そうと思ってたけれど、いまちょっと迷うくらいに美しい。文は淡々としているように見えて、そんなことは全くなかった。出会い。思い出。少年たちの成長。よい。 読了日:09月05日 著者:湯本 香樹実 ![]() かわいい…ほっこり…さいこう……いきるってすばらしい…すばらしい…。ツイッターで前からたまに読んでたのを単行本化に気付くのに遅れた不覚。これは一生大事に読み返して、人にも貸してあげたいレベルのよさです。ありがとう。 読了日:08月30日 著者:帆 ![]() 新キャラが増えて既存キャラも掘り下げられて、ますます面白い。嵐くんの話、同年代で、立場が違うけど道が交差する友達っていいよね。いつも作中は深海水族館にいるだけに、今回けっこうあった地上描写が新鮮。 読了日:08月10日 著者:椙下聖海 ![]() くらげバンチで読んだときよりも絵がきれい! 話が面白い! キャラに愛着沸いた表情がとてもいい! 動物すごい! 目が離せない! ただしあっという間に読んでしまい、四話のみの収録であることに少々不満を感じたので★4 読了日:08月09日 著者:椙下 聖海 ![]() ファンタジーを探してた時に目に入って、試し読みの冒頭部分が性に合ったからの衝動買い。もとは上下巻だったのを四分冊したからか、終わり方にやや唐突感。でも下手に危険を出すより「世界が広がった」というイメージに好感。概念の説明や掛け合いがすらすら読めて面白いのに対し、状況描写がテンポ悪く感じてなかなか進められなかった部分もあったが、新しい指話で距離が縮んだり地下探検したりと、ボーイミーツガールの質は高い。マツリカキリヒトの肉体的生命力の対比が好き。続きに期待。 読了日:08月08日 著者:高田 大介 ![]() 以前から名前だけ知ってたけどウェブ漫画総選挙で試し読みして、クリティカルヒットだったため勢いで全巻購入。控えめに言って最高。危うい駆け引きと距離感の男女が好きな人には絶対に萌える。続刊が楽しみすぎて、これから幾度となく読み返すことだろう。 読了日:07月26日 著者:Fe ![]() 三巻を読んでからしばらく経ってたから人物の相関がちょっと思い出せない…読み返さねば…ゼッタの射撃センスが冴えててうれしい。れんぞーさんのぶっ飛び具合はなぜか逆に安心できた。それにしても、毎度いいところで終わりおる(*´Д`) 読了日:07月22日 著者:DOUBLEーS ![]() 毎度まいど大事件に巻き込まれ過ぎではないかw ツッコミどころは多いけど、今までなかったチームの団結が気分よかった。オークションも面白かった。野郎同士が随所でなかよくしすぎ…いや、何も言うまい。今回、忍ちゃんと黒木が一番輝いてた気がする。続刊どうしようかなぁ、ちょっと興味薄れてきたな…。 読了日:07月16日 著者:桑原 水菜 ![]() スロースターター…? 最初のシーンで、おっ! と引き込まれたのに、日常パートに中だるみを感じなくもない。でも最後はきれいにまとまってて、伏線漏れもなくよくできた物語だと思ったよ。仁吉佐助の活躍が足りない気はしたけど。 読了日:07月13日 著者:畠中 恵 ![]() この屋敷は一体なんなのだ… 藤田先生の作品はこのわけわからない謎の絡み合いが徐々に晴れていく時の「そうだったのか!」が好き。青一君を見ているだけでも面白い。今後も楽しみである。 読了日:07月10日 著者:藤田 和日郎 ![]() ラストシーンがこの物語の狂気…。本作は本格を謳うだけあって、細かい。ヒントも多かったし、過去の事件の犯人と共犯者には割と早い段階で気付いたけど、実行するためのトリックや全体像はおそらく半分も掴めていなかった。一人称パートに感じていた違和感をもっと追究すべきだったか。私は普段あまりミステリを読まない(=必ずしも推理をしながら読んでいるわけではない)のだが、このシリーズは気に入った。 読了日:07月05日 著者:綾辻 行人 ![]() 電子でみつけて再読。やっぱり面白い。私の中では立川恵のタカマガハラと並んで、少女漫画旅ファンタジーの原点って感じ。衣装とか小物がかわいいし、アオちゃんが後日談で素直に笑ってるのが◎ 本誌で読んだ当時はマホラの話が結構怖かったな…。 読了日:07月02日 著者:藤田 まぐろ ![]() キャラを掘り下げただけあってみんなかなり好きになってきた。この作者さんは、コマの隅での一挙一動までを楽しめるように作ってると思う。続きも楽しみ。 読了日:06月28日 著者:久世 岳 ![]() 久世岳作品すきだー。ずっとチェックしてたのをやっと買った。連載部分の読み返しもよかったけど書下ろし部分がとても好き。休日! 読了日:06月28日 著者:久世 岳 ![]() 面白い。世界観がまず圧倒的に独特で、ふしぎで、身近なようで異様だった。世間知らずの青年が旅をして、発見をして、出会いをする。主体性に欠ける主人公は場合によっては耐え難いが、本作には彼のような者が一番合っていたように思う。コロンブスに関する問答がすごく好き。人物や背景描写含めて文体はあっさりめだが、展開される思想や論理にまったく飽きがこない。これは二、三度読んでこそ楽しめるはず。続刊を読むのも楽しみ。 読了日:06月20日 著者:柞刈湯葉 ![]() うわああん終わっちゃってさみしいぃいー! でも書下ろしと解説はうれしかったし、これから何度もじっくり読み返しては笑いたい。作者さまお疲れ様です。温かい世界をありがとうございました。 読了日:06月18日 著者:T長 ![]() 表題作はさくっと読めた。語り口が斬新で狂気は確かに感じたけど、いちばん動き回っていた二人が好きになれなくて、終わり方もおおむね予想通りで、ピンとこなかった。優子の方は最後のひっくり返し方に「やられた…」は多少感じたけどそれよりも花の話に無理やり感…まあ、この乙一は好みじゃなかったな。これがデビュー作だったらしいので、なるほどといえばなるほどである。 読了日:06月15日 著者:乙一 ![]() 子供の頃すごく好きだったのを今になって電子で単行本購入。再読でも、やっぱりドキドキわくわくするのはさすがよ。 読了日:06月08日 著者:立川 恵 ![]() 身を乗り出したとたんにスパッと読めたのはさすが乙一。心をすり減らす展開にしてややそっけない文章、ひたすらに主人公に救われてほしくてページをめくった。ある種、立ち上がる力と許す力を探す話かもしれない。二度は読まないだろうけど確かに面白かった。 読了日:06月01日 著者:乙一 ![]() すごい話というかエンタメとしても社会風刺としてもレベルが高く、ものの見方のアングルもいろいろ攻めていた。複雑だけどわかりやすい。世界観はもちろん、構成や主人公の変遷にも引き込まれる。ただただ筆者の著作が少ないままいなくなってしまったのが惜しい。次はアニメ観たいな… 読了日:05月24日 著者:伊藤 計劃 ![]() やっと読めた。キャラ増えて来たのに描き分け…いや何も言うまい。恋愛話はいいけど成人男性が資料見ながらの雑談に交えるかなぁ…w バランス的に恋バナがここ数巻ずっと前面に押し出されてるのがかなり気になってる。でも短命と環の話や同期鍋はよかった。ゼロナナが過去と折り合いをつけようとしているのも。次回こそ、大きな波乱が来るかなと期待。 読了日:05月17日 著者:花田 陵 ![]() ネット友の猛烈な勧めでウェブで読んでみて、ビビッときて購入。描きおろし部分もいい感じ。しをちゃんを取り巻くやさしい世界(´∀`*) 読了日:05月17日 著者:T長 ![]() 1と2の短編たちもよかったけど、長編はさすがに面白い。胸を抉る切なさとグロさの夢枕先生、儚い美少年を書かせたら右に出るものはいない…。印象に残るシーンがいくつもあり、戦闘は迫力一杯。個人的に玄角さんが好きなので活躍しまくってくれてうれしい。 読了日:05月07日 著者:夢枕 獏 ![]() 感無量。滅びの美学というものがあるが、歴史上の人物の話である以上、結末は最初からわかっていた。わかっていながら、彼の一生のなんと輝きに満ちていたことよ。最後の方の流れはおおよそ予想通りだったけれど、それでも心に響くものがある。モレはいい女だなあ。誰かの人生を辿る感動が、熊谷先生の作品にはいつもある。地の文がひいて会話だけのところにはその表情や駆け引きを想像させる力がある。故郷への愛と誇りに満ちた民の軌跡。とても充実した時間だった。フレオ好きー 読了日:04月23日 著者:熊谷 達也 ![]() よくも悪くもアルファポリス&レジーナ。さくさく読めて、キャラや世界観が可愛く(活躍がなくて持て余され気味の人物もいたが)地の文での作者の遊び心も感じ取れた。個人的には聖獣と契約する魅力と神子の必然性がいまひとつ伝わらなかったかな(王が躍起になるほどのことか?)…一番の悪役となりえるはずの王や兄王子のイメージが弱いままに終わったのも、やはりアルファ。千年いたとはいえ王と王子を軽率に衝突させる聖獣でいいのか?? しかし何はともあれ大団円、続きを続きをと読ませる力は十分にあった。続編があればよむ。 読了日:04月11日 著者:草野 瀬津璃 ![]() 当初、だいぶ変な話だとか変な主人公だと思っていた。やがて主人公の異常な生い立ちよりも感性に注意がいき、著者の高い文章力や描写にとらわれていった。めちゃくちゃはまった物語ではないが、印象的な場面やディテールが多く、何度かページを戻って読み返しながら進めた。「その動きに意味があるように、小暮しずくの行動にすがった」の段落が特に好き。これ以外の感想は、上橋菜穂子先生の解説と近いものがある。誰もが一読すべきと思われ。 読了日:04月04日 著者:西 加奈子 ![]() アニメに際して再読。こんなエピソードあったっけとか登場人物が出てきた順番を完全に忘れていた…。チセの過去にこんなに前から触れてたのか… 読了日:03月26日 著者:ヤマザキコレ ![]() ぎゃひい! 相変わらずいいところで終わりおって… 続きはいつ出るのォ! 読了日:03月22日 著者:DOUBLE-S ![]() 面白かった。館シリーズはこれが初めてだが、なんていうか、アートだった。島田さんとはまた会えるのだろうか? 綾辻先生の他の本に手を出すべきか迷っている…。 読了日:03月20日 著者:綾辻 行人 ![]() 相変わらず画がすごい。人種の顔の描き分けも。この巻では物語の核心に触れる瞬間があったりして、ドキドキハラハラした。プリンツへの好感も上がった。今月中に次の巻が出るとしって今から待ち遠しい(これアニメ化してくれないかな… 読了日:03月08日 著者:DOUBLEーS ![]() DOUBLE-S氏は死がふたりを~から好きで、あらすじもどう考えても面白そうだったから購入。レビューだと人間ドラマが物足りないと言う人もいたが、私はこのストイックさに感じ入るものがあった。イサック、よい。もちろん、頑張る娘さんもよい。 読了日:03月08日 著者:DOUBLEーS ![]() 読んでいた最中は色々思ったことがあったけど、読み終わった今ではただ余韻に浸りたい気分…。全ての登場人物に深く感情移入し(悪役にすら)、全員に幸せになってほしいと切に願いながら読んでいた。これは、絶対二度以上は読みたい一冊。 読了日:03月07日 著者:冲方 丁 ![]() エンタメとしての完成度は相変わらず高い。謎のつなぎ方や展開の勢い、登場人物の人間臭さが好き。十三人目が殺人鬼なのは妥当かなと思ったけど、正体を知った時の「やべえ想像してたよりずっと怨念抱えてそう」とか「これはめっちゃ追って来るぞ」みたいな気持ちで、夜中にトイレに行くのが一瞬怖かったのは白状しよう。天使の囀り、青の炎、悪の教典に続いて本作を読んだ今、貴志先生作品では男女は結ばれないものだという結論に至っている。最後は、ホラーとしてはテンプレな終わり方かな。ひとつ解決しても、環は閉じず… 読了日:03月06日 著者:貴志 祐介 ![]() ゆっきー…こじれてんなぁ。出雲、シュラとヒロインたちの問題をひとつず払拭して結束を固めている流れの中、最後(?)に雪を持っていくのは当然に思える。同年代グループで彼だけが生徒でなく先生だったのが、心を打ち明けられる仲間を作るむずかしさを助長したようだ。世界は変わりつつある。今後の展開が楽しみ。 読了日:03月01日 著者:加藤 和恵 ![]() これは内容を詳しく語っては野暮だろう…もうね、最高。 読了日:02月14日 著者:森 薫 ![]() 相変わらずの面白さ。悪役でも悪じゃない人たちとか、シャモンのサイドキックではない自由気ままな立ち位置が好き。 読了日:02月13日 著者:夢枕獏 ![]() 繋がる繋がる。なにか大きな流れに向かう予感がしてくる。プールの話でまさかの女の子再登場…佐々木氏と退治屋のコンビが面白い。 読了日:02月05日 著者:マツリ ![]() 海が舞台なのが新鮮で面白かった。喧嘩した無量と忍に挟まれるヒロインや元寇の背景も興味深く、ピンチになって終わる上巻の図は恒例ながら今回は萌絵なのが良い。続きも楽しみ 読了日:01月31日 著者:桑原 水菜 ![]() 登録忘れ。大団円の完結、小松はいいやつだったなー。最終巻は巻末おまけがなくてさみしい。 読了日:01月23日 著者:HERO ![]() 前から気になってたら、0円だったので。色々と独特…めちゃくちゃ続きが気になるわけじゃないけど、アニメは観たいかも。 読了日:01月21日 著者:市川 春子 ![]() やはり夢枕獏は面白いのう…。エログロ、切ない話、伝奇&アクション、望むすべてがここにある。「月の王」アーモンのキャラが引き継がれているというから興味を持ったけど、世界観がだいぶ違うので新鮮。再登場しそうなキャラが何人かいて、まだまだ序盤って感じで、続きも楽しみ。 読了日:01月16日 著者:夢枕 獏 ![]() これまで読んだ熊谷先生作品に比べると人間社会と野生動物の関わり合いの部分はあったもののドラマ性は薄く、そのおかげあってか純粋な狩猟物語として楽しめた。余計なものが無い分、大自然を肌で感じ取れるような。終わり方には森シリーズっぽさがあった。ドラマ性が薄かったから印象に残らない予感もするが、面白かったのは間違いない。疾風ちゃん… 読了日:01月13日 著者:熊谷 達也 ![]() 良質なエンタメ。全員のキャラが立ってて魅力がするりと伝わってきた。読み終わってから裏表紙の紹介文を目にしたのだが、これが実によく内容を表していた。試し読みをした時点で珍妙そうだなと思い、やっぱり珍妙で、そして青春くさくて摩訶不思議だった。意味不明だけど…人生こんなもんだよねっておもいました、まる 読了日:01月10日 著者:万城目 学 読書メーター |
2018年お疲れさまでした
2018 / 12 / 31 ( Mon ) こちらがあわただしく親を接待(?)しているうちに、日本ではもう一年が終わろうとしていたのですね…(゚∀゚)アヒャ
なんか今年の後半に入ってから執筆ペースが激しく落ちてますが、気負わずに来年も続けていこうと思います。こんな更新頻度の低いブログでも変わらずに遊びに来てくださる皆さまが天使です。 神がお許しになるならば、来年は我が家に一匹の乳幼児が増えているはずです。ゆるっと頑張っていきます。 ちなみにアメリカに育休はありません。ありませんよ! ありませんが、保育園は割ととんでもなく早い年齢から受け入れてくれます。まあ理想としてはこちらは親の手を借りて半年までは家で育ててから様子見て週2~3日ほどデイケアに入れたいところ。 おっと、脱線しました。 来年もどうぞよろしくお願いいたします! 良い年越しを! |
3-2. c
2018 / 12 / 17 ( Mon ) 地面にまで下りて、草の隙間を縫っての進行に移った。次にどこへ向かうのか、皆目見当がつかない。 外は薄暗かった。(時系列で言えばさっきの場面より前、でいいんだよね) 木陰でナガメの進行が止まったかと思えば、形容しがたい感覚が全身を包んだ。 超高速で、あるはずのものがなくなって、あったものに替わって何かが浮かび上がっている。自分自身が、元の場所から脱していくようだ。 数分して、曖昧にしかつかめなかった周囲のイメージが鮮明になっていく。足元を見下ろすと、小さな蛇が脱皮した抜け殻があった。それをナガメは感慨なさげに踏みつぶす。 「ここにいたか」 突然かけられた声の源をたどると、息を切らしたラムが、いつぞやのように大股で駆け寄って来ていた。彼は流れるような慣れた動作で、自らの羽織っていた上着をナガメに譲った。 「外で変化したら寒くないか」 「へーき」 「だからって全裸で歩き回るな。誰かに見られたら、」 「わーってるって」 幾度となく繰り返されたやり取りなのか、ナガメは煙たそうにする。少年の体には明らかに大きすぎる着物になんとか帯を締めて、再び顔を上げた。 「で、なに」問われた青年は目に見えて怯んだ。きっと言いにくいことだろう、唇が微かに震えている。「てかなんつー顔してんだ。おまえ、なぐられたんか?」 その言葉で、唯美子はラムの顔を二度見した。すると片方の頬が、最初に目に留まらなかったのが不思議なくらい、すごいことになっていた。顎まわりが腫れてあざができ始め、口元には血がついている。 「そうだ。歯も一本抜けてしまった」 「うわーヒサンだな。ただでさえオトナの歯は生え変わらないんだろ」 「……どうして蔵の食べ物を盗んだんだって、あのひとに事情を聞こうとした。でも取り合ってもらえなかった。自分はやってないの一点張りで、しまいには激昂して……このザマだ」 「なにやってんだよ、ばっかじゃねーの。犯人がスナオにやりましたってふつう認めるわけないじゃん」 ナガメは青年の脛辺りに軽い蹴りを入れる。ラムは短く呻いた。 「返す言葉もない。僕はお前の証言を信じてるけど、あのひとが目を合わせて否定してくれれば、そのまま受け入れようと思っていたんだ。だけどかえって不信感を抱いてしまう結果になった」すっかり意気消沈したような、悲しい苦笑を浮かべる。「教えてくれないか。お前は動機を知っているって、前に言ったな」 知ってる。肯定を述べて、ナガメはぽすんと草の上に腰をかけた。隣の位置を手の平で叩いて、ラムにも座るように示した。青年は神妙な面持ちで応じた。 それから少年は語る。 これまでに見聞きしたすべてを。三つ子を産んだ夫婦の抱える秘密と、その代償を。最後に彼らの悪意の向いた先についても、淡々と伝える。 当事者となってしまった青年はまず驚きに目を見開き、表情を曇らせ、そして深く頭を垂れた。 「話してくれて、ありがとう。蛟龍」 一言一句、重いものを引きずるように、彼は口にした。 「ん。これからどーすんの」 胸中に巣食う心配を声に出さないのは努めてのことなのか、それとも自然とそういう仕様なのか。ナガメは足元の草を片手でぶちぶちと引き抜きながら返事を待っている。 そんな折、唯美子は思い返した。水田でラムを見送った際の独り言を。 (責められない……きっと同情する) かくして、憂えていた展開に繋がったわけだ。 「どうもしないさ。どうしようも、ないことだ」 ナガメが俯いていたため表情は見えなかったが、答えたラムの声は穏やかだった。 「ほんとばっかじゃねーの」 ――ぶちっ。 ひと際大きな音を立てて、草の束が根ごと大地から引っこ抜かれた。 * 他者の記憶をたどる旅が中断された。まだもやのかかった頭で、なんとなくそれだけは理解できる。 夜中に細かい物音で起こされるような浮遊感があった。人工的な灯りが照らす室内は明るく、目が慣れるまでに何度も瞬きをしなければならなかった。あの三人組の女性客は既に立ち去った後なのか、それらしい影が見当たらない。 ふと唯美子の耳に剣呑なやり取りが届いた。意識が呼び戻された外的要因はこれか、とゆっくり上体を卓から起こす。 「てめーはいつも面倒ごとおしつけるな。大物相手ならさいしょからそう言え、よけーな体力つかわせやがって」 「おや、あなたほどの個体に『余計な体力』という概念があったとは驚きです。もしや苦戦したのですか? いい気味ですね」 「狸のくせに狐みたいな顔すんだなー」 「それより水を滴らせながら店内を動き回らないでいただきたい」 「なんか拭くもんくれ」 手ぬぐいが宙をよぎったところで、ちょうど唯美子の目の前がクリアになった。出かけた時と同じ、十六歳ほどの少女の姿をしたナガメが、乱暴な手つきで髪を拭っている。 (この姿も知ってるひとを写したのかな) 段の入ったショートヘアやほっそりとした手足、上下が完全にコーディネートされたパステル色のふわふわとしたブラウスとスカートが、あまりにも調和が取れている。かなりの美少女と言えよう―― 片足を椅子にあげていなければ、の話だが。いかに見た目が可憐そうでも、中身まで擬態する気がないのかもしくはこの場は織元の目しかないのでスイッチを切り替えているのか、ナガメはやはりナガメだった。 |
十七週目の検診にて
2018 / 12 / 12 ( Wed ) 医師「あー、うん。クリーチャーがいますね」
いや、確かに私もエイリアンだなとは思ってるけどww たまーに動くけどまだそんなにだから、時折「まだいるー?」って気分になりますが、順調に育っているのでしょう。もうすぐでハーフウェイポイントになりますね。 |
3-2. b
2018 / 12 / 02 ( Sun ) おうむ返しにナガメが「感謝な」と囁いた。 「わからない感情だ」「わかりたいか? 初めて会った時と比べて、今のお前は、人間に大分興味を持っているように見える」 少年の表情筋が動いて、むっとした顔をつくった気がした。しかしラムには見えていなかったのか、言及されなかった。 「身ひとつでこの国に着いたばかりの頃、右も左もわからなくて、言葉もしゃべれなくて、どんなにか不安だったか。村人たちが見つけて受け入れてくれたおかげで僕は、毎日……屋根の下で眠れて、温かいご飯が食べられた。幸せだよ。十何年もの間、ずっと、幸せだ」 ナガメは何も答えず、ただ嘆息した。会話が途切れ、風の音ばかりがしつこく響く。こんな状況では満足に眠れるはずがない――。 ふと、ラムの言葉が過去ではなく現在形であることに、唯美子の意識が向いた。 「蛟龍……お前も長いこと、よく僕の平凡な人生に付き合ってくれたものだな」 「こんなん、まばたきの間ですらねーよ。もっとつきあわせりゃいいのに」 「……感謝してる。もうお前がこの国に留まる理由もなくなるな……最後に頼まれてくれないか」 「やだ」 食い気味に答えて、ナガメはそっぽを向く。 (なんてもったいない!) 友と過ごせる限られた時間だというのに。穏やかに過ごしたいと、彼は思わないのだろうか。こんな時、最期の願いを、叶えてやりたいものではないのか。しかしナガメが自分で明確に「友」と口にしたわけでもないので、こちらが勝手に親しい間柄なのだと勘違いしているのかもしれない。 (それにこの拒絶の仕方はどっちかというと、認めたくないみたい) 大切な相手がいなくなるのだと信じたくないがために、話題を全面的に否定してしまう心理だ。唯美子自身は逆にできるだけ相手に尽くしたくなるタイプだが、母辺りは、こうだった気がする。 結局、風景が中途半端なところで崩れてしまい、続きを見ることはできなかった。 次の場面は一室を見下ろすようなアングルからだった。 だが遠近感がおかしい。というより視界そのものが不明瞭で、色彩が極端に少ない。待てども、ナガメ自身が動こうとする気配がない。 なんとか慣れない映像からヒントをかき集めようとした。 体の感触にも違和感がある。まるで全身が触覚になっているような、座っている時よりも「地面」に触れている表面積が多く感じるような――温度情報に敏感になっている気がして、そこでようやく思い至る。 (これって蛇バージョンなのかな) 蛇と言っても既存の枠からはみ出た身だ、ナガメの五感はたぶんかつて同種だった蛇よりも優れているのだろう。視界はやがておぼろげながらちゃんと形を成し、聴覚も人の声を拾い始めた。 男性と男性が囲炉裏を挟んで何かを言い争っている。若い方の男性の糾弾を、年上の男性が頑なに受け付けない感じだろうか。泣き喚く赤ん坊をあやす女性が、不安そうにふたりを見比べている。 言い争いはこの場では解決されなかったのか、ついには年上の男性が立ち上がって出口を指さし、もうひとりの男性を追い出した。 「ねえあんた。あのひとはあれで、ごまかせたのかな」 女性の問いに、男性は舌打ちした。 「だめだろうな。なんでばれたかわかんねえが、おれたちが蔵のもんをとったって、知ってやがる。ほっといたら告げ口すんじゃねえか」 「どうしよう!」 女性がわっと泣きだした。それを夫らしき男性が「騒ぐな! 近所のやつらが不審がる!」と怒鳴りつける。 (この夫婦、山に来てた……!?) 自分の背筋でもないのに、スッと冷えたような感覚があった。これが古い時代なら、きっと双子が忌み嫌われていたはずだ。双子どころか三つ子となれば、村の者からひた隠しにしなければならないのも致し方ない。 聞けば、真実を唯一知っていた産婆が流行り病で死んだため、夫婦は自分たち家族に運が向いていると考えたらしい。なんとかこっそりと子供を育てようとしたが、さすがに三人分の乳を出し続けるには授乳の頻度が足りなかったし、母親の疲労も著しい。 (かわいそう――) 同情しかけた次の瞬間、耳を疑うはめになった。 「なすりつければいいんだ」低く、泥の中を這うように笑って、夫が提案した。「そうさ、告げ口される前に告げ口してやりゃあいいんだ」 「そんな! 村のみんなにうそをつくってのかい。あんないいひとに、そんなひどいことできないよ!」 「きっとみんな信じるさ。それともなにか、おめえはわっぱの命より縁もゆかりもねえ南蛮人がだいじだってえのかい」 「そうじゃないよ……でもラムさんは何年もいっしょに畑で汗流した仲間じゃないか……」 「わかってる。背に腹はかえらんねえだろ」 話はなおも続いたが、妻の説得が夫に届くことはなかった。 (ナガメはこうなるって、いつから予想してたのかな) しゅるり、小蛇の体は屋外へと進み出る。 |
3-2. a
2018 / 11 / 26 ( Mon ) ひどい騒音が空間に反響している。継続的に聞いていては頭痛を引き起こしそうなそれは、折り重なる赤ん坊の泣き声だった。 ――前回の記憶の断片の始まり方とは打って変わって、ここは落ち着かない。「うるせー」 ナガメがわずらわしそうに小指で耳の穴をほじくる。しゃがんで覗き込んだ先は、浅い洞穴のようだった。 「みつかりたくなかったら、だまってたほうがいいぜ」 少年が洞穴の中に無造作に手を突っ込むと、泣き声はたちまち勢いを失くしていった。 静寂を取り戻した暗闇。ひんやりとした風、木々の匂い、まるで山にいるような印象を受ける。ナガメの記憶を通して五感の情報を得ている唯美子は、奇怪な状況に驚いていた。 穴の中にはまだ生後数か月といったところの小さな赤ん坊がふたり、一枚の布にくるめられて寝かされている。 「しょーがねーな」 そう言って、少年が己の袖を破いた。もともとあまり強靭な生地ではなかったのか、紙を破くような容易さで着物が裂けていく。小さな布切れ二枚を、ナガメはそれぞれの赤ん坊に巻いてさるぐつわとした。 (だ、大丈夫なのかなそんなことして……おしゃぶりじゃあるまいし、苦しいんじゃ) 異を唱えようにもこの映像はすでに過ぎ去った記憶、変えようのない出来事である。どこの誰の赤ん坊が山奥に捨てられていようと、助けてやることは叶わない。 にわかに空気が震えた。直前、ナガメは己の呼吸を鎮めたようだった。 猛獣の気配に反応したのだ。夜の山に赤ん坊が置き去りにされていて、近隣の肉食獣が興味を抱かないわけがなかった。 「また来たのか」 闇の向こうから威嚇してくる野生動物にまったく引けを取らずに、ナガメの発した声は底冷えしそうな迫力を有していた。しばらくして、猛獣の足音は遠ざかっていく。 (「また」……?) 慣れた様子で、少年は歯と歯の間から鋭い呼気を吐き出していた。こうして赤ん坊たちを脅威から守ったのが、まさか今夜が初めてではない――? 疑問の答えは、少しずつほどかれていった。 夜が更けると新たな来訪者が現れ、赤子のおむつを替えたり体を拭いてやったり、粥のような食事を与えてやったりと手厚く世話をした。その男性が穴に近付くよりずっと以前に、ナガメはさるぐつわを取り除いて己の身を木の上に隠していた。 もっとも驚くべきは、男性が別の赤ん坊を背負ってきたことだった。帰り際にその子を置いて、ほかのどちらかを入れ替えに持ち帰っていく。 これが毎晩続いた。男性の妻であろう女性が来ることもあった。 (村にいてはいけない子供を、こっそり生かしてるみたい) それをナガメは邪魔をするでもなく手伝うわけでもなく、時々やってくる肉食獣を追い払うだけして見守っていた。 けれど何故だか子の両親を見下ろすナガメの心情には蔑みが――否、怒りが――含まれているように感じられた。 そういえば順不同だった、と次の場面に移り変わった時に思い出した。物置のような狭い小屋の中は、血管が凍りつきそうな寒さだ。もしかしなくても季節は冬である。 数分おきに木板を叩く風がいやに激しく、唯美子は竦み上がりそうになる。けれど記憶の主である少年は恐怖どころか寒さも感じていないらしく、それどころか燃え上がりそうな怒りを胸の内に宿していた。 こんなに激情することもあるのかと唯美子が驚いていると、向かい合っている青年もまた、同じ感想を漏らした。 「お前でも怒るんだな、蛟龍《ガウロン》」 「そっちがくだらない理由でしにそうになってるからな」 ナガメが苛立たしげな早口で応じる。ラムは苦々しく笑った。 小屋の中は真っ暗だが、ナガメは夜目が効くため簡単な輪郭以上の映像が網膜に映っている。水田を歩いていた健康的な青年の面影は今やほとんどなく、痩せ細って皮膚と骨しか残っていないような儚い命が目の前にあった。 (どうして……それにさっきから気になってたけど、この臭い……) まるで何日もここに閉じこもっていたような――。ただし閉じ込められていたのだとすれば、ナガメはどうやって小屋の中に入ったのだろう。 ラムは座っているだけでも億劫な様子だったが、物置きは散らかっていて、横になれるようなスペースがなかった。壁に背をあずけるのが精いっぱいだ。 「くだらない……か」 「そーだよ。なんでお前がこんなとこで朽ちてやんなきゃなんねーんだ? ぬれぎぬだし、ばかばっかりだし、逃げるなら手を貸すっていったじゃん」 「ありがとう」 「だー! 礼は言っても、来る気はないんだろ」 ラムは今度は「ごめん」と小さく笑った。 「罪を認めれば領主さまのもとで裁かれる、逃げたなら罪を認めたと同じ、それか無実の主張を貫いて餓死するしかない。選択肢をぜんぶ検討したうえで、僕はこうするのが一番だと決めた」 「納得いかねー」 「……あの人は、決して名乗り出ない。せめて僕ひとりの口減らしができるなら、結果、村のためになるだろう」 「そこがいちばん納得いかねー。なんで、ラムがしんでやんなきゃなんねーんだ。逃げていきのびればいーだろ? べつの村にいけば? 最悪、ひとりで野に生きてればいいじゃん」 「別の村に辿り着いても、領主さまからお触れが出るはずだ。どこまで逃げれば安息がある? 前にも教えただろう、人間は社会がないと生きていけない。孤独に生きるくらいなら、僕は民家に囲まれて死ぬことを選ぶ」 「わっけわかんねーよ! 生きてればそれでいいじゃん。生きてる以上に、なにがそんなにだいじなんだ」 ふしぎだ、とラムは静かに呟いた。 「永遠のような生を送る化け物が、生きることそのものを至上とする――生きていることを、誇りに思うんだな」 「…………」 「きっと人間は、どうしようもなく欲張りなんだ。息をしているだけじゃあ物足りないと感じてしまう――……蛟龍、僕は」 消え入るような声だった。ナガメはしゃがんで続きを待った。 「この村に感謝している。未練や悔いはあるし、悲しいと思うこそすれ、恨めしいという感情は少しも無いんだ」 大筋は立ててあったものの、細部がしっくりこなくて練り直してました。 |
今日も働きたくないという私をだれか
2018 / 11 / 14 ( Wed ) 殴ってくれー。
そういえば「麗しき、その島」を先週更新しました:https://ncode.syosetu.com/n7092dn/ あと描写力UPを目指そう企画第六回目に参加しますので月末にそっとチェックしてやってください。勢いで書いたけど割と気に入っている短編です。感想お待ちしてます。 もちろんゆみミズの三章二話も進めますとも。カメの歩みからサラマンダーの歩みを目指して(゚∀゚) 拍手返信@ナさん: ありがとうございます! 人に話すと「そんな気がしてた」との返事が多くて、みんな気付いてくださってるんだなとほっこりしてます。当人は、心音聴いたらエイリアンとの交信みたいで実感がないというより「潜んでおられる……」という何とも言えない気分です。 人生は何事も経験で何事も小説のネタなのだと思ってゆるく臨むことにします('ω')ノシ |
3-1. f
2018 / 11 / 13 ( Tue ) 促されるままに屋内に入ると、そこでは先ほど見かけた女性三人組が歓談していた。通りすがりに会釈を交わして、唯美子は隅の席に腰を下ろす。 織元から渡された手ぬぐいとしいたけ茶を手になんとか人心地がつく。けれど頭の中はつい先ほどまで見ていた白昼夢でいっぱいだった。まとまらない思考、次々と沸き上がる疑問。ざあざあと激しく降り注ぐ雨の音が、心のざわめきを余計に掻き立てる。 (いまどき年貢を収めてる地域なんてあったっけ? もっと昔の時代なのかな) 知らない日本と、知らない彼。訊いたら答えてくれるだろうか。 それとも二百年近くナガメと知り合っているという、ちょうどいま近付いてきているこの男性なら、答えを持っているだろうか。 「織元さん」 「はい?」 彼が隣の席に腰を掛けてくるより早く、声をかけた。長髪の美丈夫は艶やかな黒目で見返してくる。 「わたし、気を失ってたんですか」 「そうですね。すぐ傍に落ちていた小瓶の欠片で、何が起きたのか察しがつきましたが」 「あの小瓶は何なんですか……あやしい術がかかってたんですか」 言ってから、詰め寄りすぎたか、余裕のない訊き方だったかなと反省した。卓の上で乗り出していた上体をさりげなく引き戻す。 ところが織元の方から距離を詰めてきた。互いに吐息がかかりそうな近さで、彼はフッと口角を吊り上げた。 「この茶屋では茶や菓子や茶葉のほかに、ちょっとしたサービスを提供しておりまして」 「裏メニューみたいな」 「ええ、そんなものです。私の本性を知らずとも『すこしふしぎな品揃えの店』とニンゲンたちの間にも噂が広まっています」 目を輝かせて織元は語った。いままでに解決したトラブルや、処方した薬について。 「あの小瓶は試験的に作っているもので、いくつか試作品があるのですよ。対象の記憶を抜き取って、本人が意識していない細部まで磨いて顕現させる術です。本来、記憶とは断片の寄せ集めですからね。正確性が次第に落ちるのはもちろん、感情との結びつきによって意図せず改ざんされることもありましょう。紡がれた場面を己で見つめ返して懐古に浸るもよし、誰かに渡して共有するもよし」 「……ではあなたは、あの子を実験台に」 織元が無言でにっこり笑ったのが答えだった。中身も見たのですかとおそるおそる問うと、整合性を確かめる必要がありますから、と至極当然そうにうなずかれる。それから織元は意味深に顎に手を添えた。 「割れた瓶の内容は一場面でしたね、確か」 「もしかして続きもあるんですか!?」 「あるとすれば、どうします。紐解きたいですか、ミズチの旧い記憶を。そこにどのような痛みや激情が含まれているのか興味がおありでしょう」 それは、と唯美子は口ごもった。甘やかな言の葉が、半ば誘導尋問のようだと気付けずに。 「試作品は無料で提供いたしますよ」目にも止まらぬ速さで織元は小瓶を五、六本取り出し、卓の上にずらりと横一列に並べた。「順序不同です。初期に作っていたものは断片的で内容が整理されていないのが難点ですが、どれからでもどうぞ。目にさしてご利用ください」 もはや押し売り販売――いや、販売ですらないのか。 「待ってください!」 色とりどりの小瓶の列に視線を張り付けていながら、唯美子の脳裏には、ラムの言った「本人の知らないところでする話じゃない」という言葉が浮かんでいた。首を傾げる織元に、つたない言葉で己が躊躇する理由を語る。 「ああ、ご心配なく。他者に見られて心底困るものを、実験に出したりしないでしょう。もっとも我々の間にはそんな思いやりや気遣いがありませんので、ユミコ嬢がマナーに反すると気にしていても、私はまったく気になりません」 ――見られて困らなくても、進んで他人に開示したい過去とは限らない。 なおも抵抗する唯美子の手を、美丈夫はさりげなく取った。思わず息を呑むほど冷たい手だ。黒い瞳に刹那の燐光が浮かび上がる。 「構いません。こうした方が面白い結果を生みそうなので、勝手ながら手を打たせていただきます」 手を打つってどういう――。 声が出なかった。視界がスローモーションにたわんでいく。意識が遠ざかるわけではなく、見える世界が作り替えられている。 「目を開けたまま眠るような感覚でしょう。ごゆっくりどうぞ」 耳元に聴こえたひと言の言いしれぬ不気味さに、指先が震えた。 後ろめたく思う。けれどそれ以上にナガメとラムのかつての物語の結末を知りたくて、唯美子は好奇心のままに記憶の奔流に身を任せた。 |
3-1. e
2018 / 11 / 05 ( Mon ) (誠実そうなひと)
驚くべき印象の違いだ。この捉え方がむしろ逆か、ラムがオリジナルなら、ナガメが海賊版のようなものだろう。彼が真似たのは明らかに容姿だけである。 立ち去ろうとする青年を、少年が呼び止めた。正確には草履の後ろを、かかとが離れた瞬間を狙って踏んづけたのである。ラムは盛大にたたらを踏んだ。 「げんきだせよー」 そう言って着物の懐から何かぬめったものを取り出す。手の平に触れた感触は冷たく、感覚を共有している唯美子は、背筋を這うような気色悪さをおぼえた。だがそうであっても悲鳴は出せない。 「……また蛙をとってきたのか」 振り返ったラムの表情に驚きや嫌悪は表れておらず、ただ呆れがあった。 「おう。蔵なんかにたよらなくてもたべものはそこらじゅうにあるだろ」 それには、ラムは少し笑ったようだった。 「食糧難が気がかりで元気がないわけじゃないさ。蛟龍、お前は相変わらずだな」 「なんだよ。たべねーの?」 「焼けた時の匂いで周りに興味を持たれたら困る。この国はどうやらあまり蛙が食卓にのぼらないようだ」 「はあぁ、ニンゲンは気にするトコが多くてめんどくせーなー」 「仕方ない。前にも話しただろう、人間には群れが必要なんだ。嫌われたら困るし、少なくとも僕は居場所が欲しい。暖かいごはんや屋根のついた家を持っていても、安心して帰れる家じゃないと意味がない。人の気配を感じながら目を覚ましたいんだ」 「ラムはひとりぐらしじゃん。カゾクいないじゃん」 「隣の家から漏れる子供の声や朝餉の匂いがあるからいい」 「ふーん。おいらはひとりのが安心できるけどな」 わからない、との内なる声が聴こえた気がした。 (ナガメには前者のふたつだけで十分なんだ。お腹いっぱい食べられて雨風にさらされないなら、それで満足なんだね) 仲間や同族に囲まれた団らんをこいねがうことがない、個のみで完成された生物。生殖能力も備わっていないから伴侶を求める必要もない。それを唯美子が寂しいと思うのは、余計なお世話なのかもしれない。 (このひととは仲良さそうだけど) 話しぶりからは旧友のような距離感が読み取れる。 水に映った屈託のない笑みを思い出す。織元とは嫌々関わっている風に見えたナガメが、この青年には飛びついて近付いていったのだ。ラムの方も、異形のモノと知っていながら邪険にしない。 「おまえさ」 「ん?」 深刻そうに話を切り出そうとする少年。対する青年は、三角笠の紐を結び直しながら、微笑を返す。 ナガメが何かを伝えようとして躊躇したのが、わかった。 「……これからなにすんの? ひまならあそぼうぜ」 「残念ながら暇ではないな」 遥か遠くを流れる薄雲を見上げて、ラムは頭を振った。 「んなら、やることおわったらあそんでー」 「家事や用事が終わるのが夜中だったら、さすがの僕も疲れて遊べないぞ。ちなみに具体的に何がしたいんだ」 「んーと、カエルとり……?」 「その手に持っているものは何なんだ!」 鋭く突っ込んでから、ラムはハッとして辺りをきょろきょろと見回した。怒鳴ったのが誰かに聴こえなかったのか気にしているらしい。 「とにかく情報を提供してくれたのは感謝している。また今度、相手になるから」 「ほい。じゃーな」 「以後《イーハウ》再見《ジョイギン》」 意外にあっさりと別れの挨拶を交わした。ラムの後ろ姿が民家の中へ消えるのを待たずに藪の中へ戻った。 「おまえにはせめられないだろ、あいつが。きっと同情する」 ため息交じりの独り言。瞬間、唯美子には手に取るようにわかってしまった。 ナガメはあの青年の未来を憂えていた。 確かな予感をもって、心配、していたのだった。 「――嬢。ユミコ嬢! お気を確かに」 近くで呼ばわる美声が、意識を現実あるいは現代へと引き戻す。視界が明瞭になると、至近距離に織元の顔があった。長髪から滴る雨粒が唯美子の頬を打つ。 「あの、わたし、」 「よかった。戻って来られたのですね」 彼が唯美子の身を襲った現象をしっかりと把握していることを、戻ってきた、の言い回しが物語っていた。問い質すも、織元はとりあえず屋内で話をしようと答えた。 お待たせしてしまいすみませぬ(o_ _)o)) 旅行から戻ってきて風邪に翻弄されてましたが、それ以外には大きく体調を崩すことなく普通に生きてます。ねむい。 |