2016年 あけましておめでとうございます
2016 / 01 / 01 ( Fri ) 今年もよろしくお願いします!
私はまだですがw 今年もたくさん創作しますよっと。 私から創作を引き離すことは不可能。 リアルでの生活を大切にしつつ、詰まれる経験からネタを捻出しつつ、目に見えない世界をどんどん構築していきます。 2015年に読んでくださった方々、絡んでくださった方々。 2016年も元気に頑張っていきましょー! |
魔物狩り師メモ
2015 / 12 / 30 ( Wed ) なり方:
魔物狩り師という職業は基本的に誰かに弟子入りしてその技術と経験を積んでなれるものとする。 師が認めればそれで一人前であり、資格取得などの明確な制度が確立されていない。 つまりフリーの魔物狩り師の中には自称しているだけで実力の伴わない「にわか者」も存在する。 そのため、可能な限り魔物退治は連合に依頼するのが推奨される。 <魔物狩り師連合> 魔物狩り師が五人以上集結し、拠点を立てたもの。職業別組合(ギルド)のようなもの。 村などの小規模な単位でも魔物狩り師が足りれば稀に連合が在る。逆も然り、巨大な都だろうと連合がない場合もある(人数が足りても、集結する意思がない)。 基本的にひとつの町にはひとつしか連合拠点が無い。 管理体制に関しては、主に会員たちが多数決で役職を決める(連合長・副長・書記・会計など)。 会員の人数が少ない場合は多数決のみで決め事を解決する。 <魔物狩り師連合の仕事> ヴィールヴ=ハイス教団、対犯罪組織ジュリノイ、その他警備団や軍、近隣の町の連合との連絡・連携。 一般市民からの魔物退治や用心棒などの依頼を会員にあてがうこと。内容によっては任務別にチームを組ませる。 大規模退治の作戦立て、報酬の振り分け。 魔物狩り師を目指し師事する相手を探している者に、適した人材を紹介すること。 会員たちの武器・防具入手や戦力向上を手伝うこと。(ある程度、会員の能力の性質・バランスなどを把握している) |
2015年 執筆活動まとめ
2015 / 12 / 30 ( Wed ) http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/341105/blogkey/1310762/
を、やってみました。 いやぁ、まだ片付いてない新居に私の家族が泊まりに来ただけでなく、相方の親戚も二人泊まって、2ベッド2バスの住処に7人で過ごした週末でした。 私の家族はああいう騒がしい集まりは最近なかったと思うので、楽しかっただろうなぁ。 うるさかったけどw そうそう、プロチームのアメフトの生試合を観に行きました。途中けっこう眠k…じゃなくて、まあ、生はなかなか迫力ですよね。アメフトは格闘技だ~、とか言う人の気持ちはわかります。どんでん返しが面白い、いい試合でした。チケット高すぎだけど。 やっと一息つけるぜ…。 そしていい加減、寒くなって欲しい。私の冬はいつ来るんだ。 |
51 & 四章 あとがき
2015 / 12 / 25 ( Fri ) |
51.f.
2015 / 12 / 25 ( Fri ) 「あ! すみません。気が付きませんでした」
少女がいきなり声を挙げる。大きな瞳が、青年の右手を注視していた。 「は?」 「怪我をされたんですね」 「ああ、さっき殴った時に擦り剥いたっぽいな」 鮮血のついた指関節のことを言っているらしかった。いちいち手当てするほどの怪我でもない。 それに普段は青年は非番の日も欠かさず革の籠手を嵌めていたのだが、職を失った途端に、半ばヤケになって手持ちの防具をほとんど売り飛ばしたのだった。 (我ながらマヌケだよな。武器まで売らなかったのが幸いか) 職を失ったその日でいきなり金に困りはしない。務めも無いのに凝った装備をつけて街中を闊歩するのが、滑稽に思えて悔しかっただけだ。 (どうせ自意識過剰だよ) 一旦卑屈な気分になれば、浸るようにどんどん沈んでいく。人生うまく行かないのはこの性格の所為かもしれない。 「ありがとうございます」 「……?」 少女を改めて見下ろした。 その時、右手が不可解な温もりに包まれた。 少女の両手に指先が包まれてはいるが、それとは別の、芯まで染み入るような温かさだ。 「いっ」 つい奇声が漏れた。皮が擦り剥けて赤かったはずの箇所が、見る見る塞がっていく。 (なんだぁ!?) 気味の悪い光景だ。青年は震えを抑えるのに必死だった。 「はい、治りました」 「治りましたじゃねえ……もうちょっとこう、心の準備をさせろ」 自分の皮膚じゃないみたいだと思っても、左手で撫でてみれば確かに感覚はあった。間違いなくこれは自分の皮膚だ。今のはどういう現象だ―― 「そういえば、とてもきれいな髪だなってさっきから思ってました。スターアニスの種の色みたい」 突発的な容姿褒めが始まる。欠片も嬉しくない。 落ち着いて物思いもできやしないな、と青年はやはり諦めた。 「せめてシナモン色と言ってくれよ」 「アニス、嫌ですか?」 「薬っぽくて苦手な味だ」 「じゃあシナモン色ってことにしますね。ああでも、アニスを練り込んだパンが食べたくなっちゃいました」 「あんたは何を言ってるんだ。さっきたらふく食ったじゃねーか、肉を」 反論してみたら、少女はぷっくりと頬を膨らました。 「美味しいパンの話ですよ。お腹が空いているという話ではありません」 「どうでもいいわ! それより、あんたが今何をやったかの話をしようか」 最後を低い声で告げると、少女は「あ」と唇を驚きの形に動かした。スカートの両端を指先で持ち上げ、腰を折り曲げる礼をする。 「失礼、申し遅れました。私はヴィールヴ=ハイス教団に属する聖女、カタリア・ノイラートと申します。今のは我々が『聖気』と呼ぶ清浄化の力です。よろしかったら、貴方の名前も教えてくださいな」 聖女カタリア・ノイラートは、服の下に収めていたらしいペンダントを取り出してみせた。教団の象徴をあしらった、二つの紫水晶が印象的な銀細工――なかなか偽造できる代物ではない。治癒能力といい、本物だ。 「聖女……」 はああああ、と彼は露骨に長いため息をついた。 自分は厄介な何かに巻き込まれようとしているのではないかと、頭の中に警告が鳴り響く。 (ヒューラカナンテ。思い出した、それって教団の本拠地だったな) 旅の聖女となると、連合への用事も単なる魔物退治の域を超えたものかもしれない。 事情は変わりつつあった。その辺の田舎娘ならともかく、人類の宝とも言われる聖人・聖女の一人を目の前にして、手助けをしないわけには行かない。 (連合に送り届けてからトンズラしよう。うん、そうしよう) 今度こそ縁を切るのだ。でないと胃が不安だ。 「あんた一人じゃ心もとないから、連合拠点まで案内してやるよ」 「本当ですか!?」 喜びすぎだ、とは口に出さずに、気を取り直して青年は咳払いをした。 「門前まで送るだけだぞ。いいな」 「十分助かります。よろしくお願いします!」 「よろしくしなくていい。俺の名は――――……」 そして求められたがままに、青年は名乗った。どうせ憶えられることも無いだろうとの軽い気持ちで。 ――しかしこれは、青年のその後の人生において、激動をもたらす出会いとなる。 |
51.e.
2015 / 12 / 25 ( Fri ) 脱力して青年は道端に座り込んだ。 「それはそうと、どうして逃げたんですか?」「……逆に訊くが、どうしてあれで『お金に困ってる人を助ける』って考えに至るのか教えてくれ」 「困っている人に手を差し伸べるのは当然のことかと」 相変わらず田舎娘の思考はあさっての方向に向かっている。呆れからか、青年は大げさに手を振り回した。 「じゃあ何か? あんたは相手が困ってさえいればなんでもあげるのか? 家族でも知り合いでもない奴を、助ける義理は無いってんのに」 「ダメですか?」 少女が膝上に腕を組んで、正面にしゃがみ込む。首から胸辺りの肌が近付いてくるが、残念ながら布面積の多い服によって肝心なところは隠れている。服の下にネックレスでもつけているのか、銀色のチェーンだけが目に入った。 「ダメだ。いいか、そういう過度に慈善的な考えが人を怠慢に追い込むんだ」 「たいまん……?」 本気でわからなそうにしている少女に、青年はずいと顔を近付け、暑苦しくまくし立てた。 「そいつはあんたの為に何をしてくれる? 靴を磨くとか荷物を持つとかなんでもいい。何か雑用をやってやるから一食恵んでくれって言ったんならいい。こっちから一回くらいは催促してもいい。でも、自分から言い出せない奴は、いずれにせよクズになるんだ」 少女は真剣な表情を動かさぬまま、聞き入っている。酒臭い息がかかっているだろうに、嫌な顔ひとつしていない。 「ましてや悪事に走る奴だ。それは、何もしてやらないけど何かくれって言う奴よりもっとずっと悪質だ。あんた今、売り飛ばされそうになってたんだぞ。危機感なさすぎだろ」 「――すごい! 目から鱗が剥がれ落ちた気がします。貴方は社会についてよく考えているんですね。私の思慮が足りませんでした。深く反省します」 「そこまで素直だと逆に気持ち悪いな……って、危機感については何も思うとこ無いんかよ」 文句を垂らしながらも青年は諦めていた。何せ少女はもう話を聞いていない。両手を合わせ、その視線はどことなく宙を彷徨っていた。 ここまで噛み合わない会話をしたことがかつてあっただろうか。青年はまたしてもため息をついて、のろのろと立ち上がった。 「大体なんでここに居たんだよ。まさかまた迷ったんじゃねーだろな」 「ええと、それは非常に申し上げにくいのですが」 所在なさげに俯きながら少女も立ち上がる。 「…………迷ったんだな。まあ逃げている内にさっきよりは近づけたとは思うぜ。ほら、こっからでも見えるだろ。まだちょっと遠いが、あの丘の上のでっかい建物だ」 青年は目当てのものを指差した。 この町の魔物狩り師連合拠点は夜になると物見の塔の灯りを一晩中点ける。水路を渡る船にとっての灯台とは少し違うが、助けを必要とする人々が速やかにそこまで辿り付けるように。 ゆえに、初見でも見間違いはありえないほどにわかりやすい。 「あれがそうなんですね」 感心したように少女は言う。おう、と青年は答えた。 「わかりました、重ね重ねありがとうございます。親切な方。お礼はするなとのことでしたよね」 ぺこりと頭を下げて少女はその場を去ろうとする。夜も更けてきたことだし、急ぎたいのだろう。 が、青年はその細い肩をガッシリと掴んで引き止めた。 「待て待て。なにまた路地裏通ろうとしてんだ」 「だってこの方向でしょう?」 「だからって一直線に進めばいいってモンじゃねえ。治安考えて道を選べよ。つくづく、よくファイヌィ列島からこんな遠くまで来れたな」 大抵の町というものには夜は絶対通ってはいけない路があって、特に丸腰の若い女が一人となると、どこを通ろうと危険は倍増する。目の前のこの少女がこの現実を理解できていないのは最早疑う余地も無かった。 「私、列島出身ではありますけど、此度の出発地点は別ですよ。ヒューラカナンテから南下してきたんです」 「ヒューラカナンテ、ってどこだ」 「非法人地域で無国籍地帯らしいです。ご存じありませんか」 言われてみれば聞いたことがあるような地名だ。青年は懸命に記憶を探り、何も思い当たることなく終わった。 |
51.d.
2015 / 12 / 23 ( Wed ) 思わず足踏みした。 人間とはどうしようもない生き物である。見ず知らずの他人が襲われていようが全力で無視できても、それが顔見知りとなった途端、放って置けなくなるのだから。青年は思いきり舌打ちした。ここで見捨てたら、寝覚めが悪くなる。 (くっそ、なんでまだこの辺に居るんだ! 田舎娘が) 怒りと呆れで一気に酔いが醒めた。 だが、どうするべきかを未だに決めかねる。 「ではお渡しします」 「それで手持ち全部かい? お嬢ちゃん惜しみないねぇ、いいねえ」 「私はまた稼げばいいので大丈夫です。どうぞ」 「そーかい、じゃあいっそのことおいらたちのもとで稼いでもらおうじゃねえかい」 「それはできません、すみません。私にはこれから向かうべき場所が――」 その先を待たずに青年は駆け出した。 少女を取り囲む大きな人影が三つ、目に入る。その内の一つが猿ぐつわのような布を両手に持ち、腕を上げている―― 他の二つの人影が、駆け寄る青年に気付いて振り向く―― それらを無視し、彼は少女に一番近い者に足払いをかけた。 不意打ちが決まり、男は派手に転倒する。 「なんだてめえ!」 面白味の無い文句と、重そうな拳。それらが右隣から飛び出した直後、青年はカウンターパンチを相手の頬骨に決めた。 残る一人は、攻撃態勢に移る動作を見せている。 構えの軸が左脚であろうことを見抜き、青年は敵のスタンスが完成するより先に膝の内側を蹴り崩した。 (よっしゃ、チャンス) 少女の腕を引っ掴んで、逃げに入る。 一分としない内に路地裏から逃げ出せた。運の良いことに少女は一度も転ばなかった。 だがその時点で二人とも息が上がっている。 「いたっ――」 少女から漏れた小さな声で青年はハッとなった。 「悪い。一刻を争う事態だったから」 手を放しつつ、条件反射で謝る。 (って、何で言い訳みたいになってんだ。そりゃー勝手に引っ張ったのは悪かったけど、助けたんだからいーだろ) 自分はこんなに下手に出る奴だったか、と首を捻る。 「よく、わかりませんけど……貴方は足が速いのですね」 何故だか予想だにしていなかった感想が返った。 「……第一声それか。言っとくけど、俺は体調万全だったならもっと逃げ足速いぜ」 「あれ以上に速くなるんですか? すごいですね」 「他人事みたいに感心してんじゃねーよ。ま、あんな三人、万全だったら逃げずに余裕で片付けられる自信だってある」 変な矜持が発動し、青年はべらべらと強気に語った。 (いやほんとに何言ってんだ俺は) 未だに抜け切らない酒の悪影響だろうか。青年は我に返り、自らの発言に気色悪さすら覚えた。 「片付ける? とは?」 「……まさか。危ないとこだったって自覚すら無いのか。あんたの脳内お花畑はさぞや立派なんだろうな」 「花畑? 冬に花はあまり咲きませんよ」 真剣に考え込んでいるような顔をして少女が返答する。 ――ここに表れているのは果たして、人を拍子抜けさせる才能か――髪をかき乱しながら、青年はため息をついた。 「よし。あんたに皮肉が一切通じないんだってのはよーくわかった」 |
息してるよ…
2015 / 12 / 22 ( Tue ) そういえばレビュー祭なるものに参加しまして、私のレビューが投稿されましたので、よかったらどうぞ
http://ncode.syosetu.com/n6430cz/27/ 引越しいそがしす。 ペンキ終わってからは 荷造り→足りないものに気付いて買いに行く→荷物運ぶ→冒頭に戻る の繰り返しで、連日体力消耗してます。 ふひい。そういえばブログ開設四周年過ぎてた。なんも用意できてませんぜ。 もうこのまま知らん振りで行こう!! 本編は… 数時間くださいw 拍手返信@ナルハシさん ありがとうございます! 私も好きです!(なんぞ 報われんなぁ、とたまに思うことはあれど、逆に全面肯定されたらそれはそれで私自身おもしろくない気がするんですよね。ちょっと異端であるのが楽しいみたいな。 |
51.c.
2015 / 12 / 17 ( Thu ) 「いいか、町ってのは村と違って複雑だし、似たような建物がぎっしり並んでる」
「はい。初めて見た時は本当に開いた口が塞がりませんでした」 「だから路は景色じゃなくて名前で識別する方が確実なんだ」 「そう――なのですか?」 青年が力説する中、少女はどんどん不思議そうな表情をしている。 「今までどうやって旅してきたんだ」 「町に着くまでは案内の方が居ました」 「案内役……」 これで合点がいった。そして、もう雇わないのか、と問う。この田舎娘は単独で旅をさせてはいけない気がする。 「連合にさえ辿り着ければ、そちらに頼もうと思っていまして」 「あー、なるほど。しっかし遅ぇ時間に行くんだな。とっくに日も落ちてるから、みんな任務で出回ってると思うぜ」 「もう少し早く行くつもりだったんです。道に迷っている間に二時間が過ぎてました」 「――どんだけ迷ってんだよ! 人に訊けよ!? この町そんなに広くねーぞ!」 「訊きましたよ。それでも何故か着けなくて」 少女がのんびり笑う傍ら、ポットローストが給仕係によって運ばれてきた。芳醇な香りがもわっと鼻先に伸び、青年は一瞬吐き気を催した。 少女はいただきますと言って早速バッファロー肉の塊に切り込んでいる。 「ん~、美味しいですね。これまで食べたことがなかったのが悔やまれます」 一口目の後に感想が挙がる。 「そいつぁよかったな。別に俺に報告しなくていいから」 青年は口と鼻を手で覆い、仰け反りながらその様を眺めた。 (にしてもコイツ、肝が据わってんのか頭がおめでたいのか。二時間さまようって相当だぞ) 焦りもせずにただのほほんと飯を食いに来ている辺り、後者だろうか。単に、連合への依頼内容が火急のものじゃないのかもしれない。 「……こっから連合拠点までの行き方を教える。気合いで覚えろ」 「本当ですか! 助かります」 咀嚼していた分をごっくんと飲み込んでから、少女は明るく返事をした。 「食べながら聞け」 「はい。ありがとうございます、親切な方。このお礼は必ず――」 「いやいや、礼はいらんって。あんたはちゃんと着くことだけ考えてろ」 これ以上関わってたまるか――と早々にその流れをぶった切る。少女は不服そうに口の端を下げたが、結局頷いた。 そうして青年は懇切丁寧に、なるべく噛み砕いて、行くべき道順を伝えた。 _______ さて――座っていた間は平気だったものの、いざ歩こうとすると急激に気分が悪くなる夜もある。それが酒を飲みすぎた直後とあらば尚更だ。 酒場を立ち去ってしばらく歩いた頃、青年は路地裏に入って排水溝の前に立った。溝の向こうの建物に片手を付き、もう片方の手で解かれつつある髪を押さえ、胃の中身を排水路に逃がす。 (サイアクだ) 喉からは空気が圧縮される音が漏れる。口や鼻の中には酸味が粘り付き、目からは熱い涙が溢れた。 だがこの行為は最終的には気分を良くしてくれるものだと、彼は経験から知っていた。 (あーもー、何もかも最悪だ) 呼吸の合間に人生に対する憂いがどっと蘇るが、とりあえず雑念を捨てて吐くのに集中した。ここで手を抜けば、二日酔いで明日は移動どころではなくなる。 やがて胃が空となり、青年は咳き込んだ。 「――はやく金目のものを出せやい」 ぼんやりとしていた頭と聴覚が、その時はっきりと一つの不穏な台詞を拾った。 時と場所を思えば、真夜中の路地裏である。他人を襲う輩の一人や二人など別段珍しくもなんともない。彼自身、排水溝目当てでなければ一人で訪れたりしない区域だ。 聴かなかったことにして、青年は人の気配のする方から背を向けた。だが次の一歩を踏み出すには至らなかった。 「貴方がたはお金に困っているのですか?」 カツアゲされていながらそんな緊迫感を全く感じさせない、どこかで聴いたような若い女の声がした。それはつい先刻、酒場で別れたはずのあの少女の澄んだ声であった。 |
果てしなくどうでもいい
2015 / 12 / 16 ( Wed ) 思春期の私はよく少女マンガとか読んで、「スポーツも勉強もできるようになればきっと学校中の憧れの的になれる」と思い込んでた節がありまして。
それでちょっと頑張ったりもした。 今になって振り返ってみると、別に私はずっとそれなりにスポーツも勉強もできていた。勿論それは全国大会レベルではなかったが、何故私が人気者にならなかったのかを冷静に考えてみると… 思考回路がきっといけなかったのだろう。 ……私は自他共に認める不思議ちゃんだった。 大人になってその隠し方がちょっと上手になっただけで、相変わらず本質はどこか大勢の輪からずれている(私の執筆作品を読めばその傾向は明白である)。そしてずれている自分を客観的に見て、ほくそ笑んでいる。 だがそれでいい。 むぐふふ この話、全然オチねぇな! |
51.b.
2015 / 12 / 15 ( Tue ) (居座る気かよ)
図々しい奴だ、と思いながらもまた食卓に突っ伏した。 (無視だ無視) 他人の動向よりも気にすべきは明日からの自らの生計だ。青年は貯金の残高を脳内で計算し、何日までなら食い繋げられるか思索した。移動中は野宿すれば更に節約できる。 「今日の一押しはバッファロー肉のポットローストと鹿肉のシチューね。どんな味がするのかしら」 少女がブツブツと呟いているのが耳に入る。両方ともこの地域では定番メニューだが、どうやら彼女は食べたことが無いらしい。 「どっちも気になるけど、合わなかったらどうしよう……」 聴こえてくる独り言が気になって、青年は自分の物思いに専念できなくなった。 性分だろうか、口を出さずにはいられない。青年は顔を僅かに上げて問う。 「あんた鹿もバッファローも食べたことないのか」 「残念ながらありません。貴方ならどちらにしますか?」 少女は嬉々として言葉を返した。独り言に始まったものが会話に発展したのが嬉しいようだ。相席を押し切ったことといい、彼女はもしかしたら一人で食事するのが寂しいのかもしれない。青年にとっては久しく忘れていた感情だ。 「クセが強いのは平気か」 「たぶん問題ありません。でも食べ辛いのは苦手ですね」 「ここの鹿肉シチューはスジ多めだ。そういうのが嫌ならポットローストだな。とろける食感で旨いぜ」 「そうなんですか! 助言ありがとうございます。ではバッファローのポットローストにします」 後半の言葉は給仕係の人に向けて言い放たれた。ちなみにやり取りからして、飲み物はジュースの類にしたらしい。 「お酒あまり飲めないんですよ、私」 給仕係が去った後、少女が勝手に補足した。 「酒場に来ておいてそりゃあ変だな。ここの麦酒は格別だってんのに」 「道に迷っている内に小腹が空いてきたので……食事が出るならどこでも良かったと言いましょうか」 「道……?」 街で一番人気のこの酒場も地域名産の肉も知らない、どこか浮いた雰囲気の少女に――青年は訊ねた。 「あんた旅のモンか。どこ行こうとしてたんだ」 青年は観念して頬杖ついた。我関せずを貫くには、どうもこの少女は危なっかしい感じがする。酔いが醒めないまま、先程よりもちゃんと話を聞く姿勢に入った。 少女はよくぞ聞いて下さいました、と言いそうなほど大きな茶色の双眸を輝かせた。 「魔物狩り師連合拠点です」 「あー……」 その返答は驚くようなことではなかった。この町の魔物狩り師連合は会員の数も質もかなり優れていて、わざわざ遠くから退治の依頼を持ってくる人間は日々、後を絶たない。 しかし解せない点があった。 「連合はこっから北西、大通りを一マイル半進んだ先の丘の上だろ。全然方向違うぜ」 そう指摘してやったら、少女は首を傾げた。次いで懐から地図のような紙切れを取り出して、食卓に広げた。 青年は少し身を乗り出し、それを逆さのまま読み解く。思い出したように視界が揺らぐが、瞬けば治った。 「えーと。矢印がスタートでバツ印が目的地か。東門から入って、この十字の交差点で右曲がって、小道を二つ経て大通りだろ。道の名前も書いてあるし、わかりやすい地図じゃねーか。どうやって間違えたんだ」 「こうさてん……道の名前?」 また小首が傾げられる。十字型の交差点なんて、道が二つだけ交わっているという極めて単純な構造だ。 (なんだこの反応) 嫌な予感がした。そもそもこの酒場の位置は、地図に記された道から南に外れている。 「……方向音痴?」 というよりは地図が読めないだけかもしれない。 「いいえ、故郷では迷ったことは無いはずなんですけど」 「あんたの故郷ってどこだ」 おそるおそる訊いた。 「ファイヌィ列島です」 「つまり、ドのつく田舎から来たんだな」 青年は口元をひくつかせる。 田舎娘の面倒など見たくない。なんとか道順だけわからせて、関わるのを止めよう。 |
51.a.
2015 / 12 / 11 ( Fri ) 人生それなりにうまく行っていたはずだった。 ――どこで歯車が狂ったかなど、振り返ったところで何も生まれやしないのに。青年は町の一番人気の酒場の薄暗い隅の席で、浴びるように麦酒を飲んだ。卓上に出されていた分を一気に喉に流し込んだ後、ゴンと音を立てて前に倒れた。 (これで何度目だよ) 組んだ腕の中に頭を埋めて、ぐだぐだと思い悩む。 きっとすぐにまた仕事は見つかる。そしてきっとまたすぐに、お役御免になるのだろう。どうにも性に合う働き口が見つからないのである。 (ごめん、師匠……) うまく行かなくなったのは、人生の師を喪ってからだろうか。 彼は既に路頭に迷うような歳ではなかったし、一人で十分にやっていけるだけの精神力も生活力もあった。家族を火事で失い、親の友人に引き取られてから数年。その男も魔物狩りの任務中に命を落としてからというもの、実際に青年は二年以上は一人で生きてきた。 ところがどうだ。生活はできても――毎日が信じられないほどにつまらなかった。 何をしてもいまひとつやる気が出ず、勤務先でヘマをやっては追い出される始末である。しかし職種の需要は永続的にあるため、貯金が底をつく前に新しい町に移動さえすれば一応次の仕事は見つかる。 何度こうしたかはわからない。最初の内は数えていたものだが、段々と空しくなってきて止めた。 明日からその繰り返しかと思うと、うんざりする。 「あの、すみません。相席よろしいでしょうか?」 何故だかその時、可憐な声が頭上から降ってきた。普段ならともかく現在の精神状態では、全く喜べない状況だ。 青年は首をもたげて半眼で応じる。そのちょっとした動作だけでも目が回った。酒が効いてきているのは間違いない。 「よろしくない。席なんていくらでもあるだろ。他を当たれよ、なんでわざわざここに」 問題の人物はフード付きの外套を着込んでいるが、この薄暗い中でも、体格からして女なのはわかる。 「それがさっき大きな団体さんが入ってきたみたいで、他に席が無いんですよ」 女はフードを脱いでみせた。 「あぁ?」 若い女だ。十六、十七歳くらいだろう。少女は特別美しいわけではなかったが、佇まいと身なりからは清潔感が溢れている。丁寧に梳かれた胸より下に届く長い髪も、牛乳のように白い肌も、この騒然たる酒場では場違いなほどだ。 「あの」 あろうことか少女は椅子を引いて青年の向かいの席に腰を落ち着けた。こちらを覗き込むように首を傾けている。 波打つ髪は栗色だろうか。下ろしただけの髪型かと思ったら、耳より少し後ろに左右それぞれ三つ編みを一本編みこんでいる。その一本が、青年の肘をかすった。 「おい、そこに座るなっつってんだろ」 彼は自暴自棄タイムを邪魔されて苛立っていた。ところが少女は青年の睨みを気にも留めずに喋った。 「差し出がましいことを言うようですが、お酒の飲みすぎでは? 顔色が悪いです。お水頼みましょうか」 「うっせえ、ほっとけ。見ず知らずのあんたに何がわかる」 反射的に突き放した―― (しまった) 虚を突かれた少女の表情が、次には傷付いたように眉尻を下げたのだ。青年は反省した。いくら虫の居所が悪くても、流石に言い過ぎではないか。 (心配……ていうか親切心、だったんだよな) 元より彼は口が悪い。意識してそうしているわけではないのに、気が付けば当たりのキツイ言葉しか並べられないのだ。またやってしまった、と青年は己の情けなさに焦る。 「すみませんでした。ご要望の通り、放っておかせていただきますね」 が、少女はけろりとして笑った。何事も無かったかのように、メニューが書かれてある木板に目線を移している。 |
50 あとがき
2015 / 12 / 10 ( Thu ) |
50.l.
2015 / 12 / 10 ( Thu ) ゲズゥの提案に、ミスリアは首を傾げた。 とりあえず文字通りに爪先を足にのせるように促す。ミスリアの右足がゲズゥの左足に、左足が右足に、向かい合う形で重なった。それを心地良い圧力と呼ぶべきか、踏まれてもほんのりとした重量しか感じない。後は上体を安定させるため、少女の後ろ肩と腰にそれぞれ手を回した。 曲も変わり目だ。ミスリアは未だにきょとんとしているが、早速踊り始める。 「わっ」 急な動きに驚いたのか、柔らかい手がゲズゥの二の腕にしがみついた。 流れて来る曲は軽快なテンポである。ある者はシタールという弦楽器を指で弾き、ある者は高らかな歌声を夜気に響かせる。向こうに見える現地の人間は隣の相手と向き合って手拍子を打ったり、片足を蹴り上げて跳んだり、縦笛を吹いていたかと思えばそれを天高く振り回したりと、何をしているのかよくわからない。わからないので、こちらはこちらで適当に踊った。曲が一際盛り上がったところで少女を足にのせたまま、逆時計回りに回転する。 「ふっ――あはは! 回るっ。すごい回りますね。は、速いです」 一瞬、目を瞠った。生真面目なミスリアが声に出して笑っているなど滅多にない光景だからだ。あどけなさが目立って、微笑とはまるで印象が違う。 衝撃は波紋のように胸の内に広がった。温かい感覚だ。嬉しい、のだろうか。 「楽しいけど――も、ダメ……目が」 目が回る、と言わんとしているのに気付き、ゲズゥは足を止めた。ミスリアは胸元を押さえて笑っている。つられて笑いそうになるくらいに解放的な笑い方だった。 やがて少女は呼吸を整えて背筋を伸ばした。しゃらん、と頭の飾りが音を立てる。 「そういえば王子はもう発たれたそうですね」 「次の日には出ていた」 「そうでしたか。たくさんお世話になったんですから、ちゃんとお礼がしたかったです」 「奴は好き勝手やってただけだ。恩に感じる必要は無い」 オルトが出発した時にミスリアは居なかったのだ。ゲズゥは去り際に交わした会話を思い返し、語り聞かせることにした。 ――聖獣を手に入れる、か。その言葉を言い放った時、私は割と本気だった。気が変わったのさ。理由は二つある。まず、言っただろう? 御せない力は要らない。 ――言っていたな。 ――あくまで噂に過ぎないが、聖獣には「性格」があるという。獣と言っても、神話からは機械のような、ただの神々の意思の代行者のようなイメージだったが、自我があるとのことだ。 ――なるほど。扱いにくく、思惑に従わせるのが困難ということか。 ――そうだ。息災でなければ利用価値は減る。しかし滅ぼさずに意識を操る方法がわからない。私はソレを探すだけの手間をかけたいとは思わないわけだ。 ――二つ目の理由は? ――横槍が入る可能性とでも言い表すべきか。調べたところ、聖なるモノの傍には常に魔が寄り添うらしいな。聖女は『魔物信仰』と呼んでいたか? そこまで言えばわかるな。聖獣に近付くなら、連中が食いついて来るとの話だ。まあ、推測を繋ぎ合わせた曖昧な情報ではあるが。 ――…………。 ――お前たちも気を付けるんだな。 最後にオルトは「それに、古い知り合いから助力を求められた。しばらくはそっちに時間を割く予定だ」みたいなことも言っていた気がする。流石に自分たちとは関係ないため、話すまでも無いが。 「興味深い情報ではあります。それにしても、気まぐれな方ですね。ちょっとだけ羨ましいです。正直に生きるって、清々しいんでしょうね」 せっかくあんなに笑っていたのに、ミスリアはもうすっかり難しい顔になっている。些か残念だ。 「……お前が何を悩んでるのか――」気が付けばそう声をかけていた。「言いたくないのなら、無理に話せとは言わない」 ミスリアは目をぱちくりさせた。 「が、言いたくなったら聞く者が居るのだと、忘れるな」 途端にミスリアの表情が凍り付いた。栗色の上睫毛がゆっくりと落ちる。 「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか」 「――――」 ゲズゥは不意を突かれた。反応があったとしても、いつもと変わらない礼の言葉が来るのかと勝手に想像していた。理由を問われるなど予想外である。 しかしながら、自然と答えは見つかっていた。 「強いて言うならお前が俺に優しくしたからだろうな」 「……っ」 くしゃっと、ミスリアは泣きそうな顔をした。そしてすぐに何かを追い払うようにふるふると頭を振る。 「私は――自分が正しいと信じているものが、必ずしも他の人にとっての最善じゃないのは、よくあることだと承知しているつもりです」 察するに、これが例の悩み事の相談だ。ゲズゥは口を挟まずに続きを待った。 「あの研究室には、『混じり物』の残骸がたくさんあったのですね」 「ああ。男の思想に賛同していた者は他にも何人か居たらしい」 「魔物を『力』として追い求める心も、死者を捜して彷徨う想いも。私はわかろうとしました。でも、どうしてもそこに伴う苦しみと破滅を肯定することはできません。彼ら自身がいくらそれを良しとしていても、あってはならない方向性だと思います」 俯いていた少女はパッとこちらを振り仰いだ。 「押しつけがましいでしょうか。結果的には『殲滅』となんら変わらないかもしれませんが、彼らを世界中から残らず浄化したいと願うのは私の我侭でしょうか」 ここで言う「彼ら」とは、混じり物だけでなく魔物をも含んでいるのだろう。 「私にできるのは根源を絶つことだけでしょう。たとえその所為で……解け、てなくなる……人が居たとしても……」 ミスリアは顔を苦痛に歪ませた。明らかに双子やヤン・ナヴィの最期を思い浮かべている。 どうしてか居たたまれなくなった。ゲズゥは膝をついて目線を合わせた。月夜の薄闇に煌めく涙を、右手の親指で拭う。 「俺たちには、彼我(ひが)の線引きが危うい」 「線引き?」 「『呪いの眼』も穢れている。生きた人間である割合が多いだけで」 「!」 「…………先祖が魔に魅入られさえしなければ、一族は無残に殺し尽くされることも無かった。そう考えるとお前が魔を世界から滅する為に動くのは、悪くない」 今後同じ末路を辿る種族が出る前に、魔の領域に手を出す者をもっと早くに挫折させられるなら。そういう運動は支持する価値がある。 ミスリアはぐっと唇を噛んだ。瞳の奥にどんな葛藤が秘められているのか。 構わずに話を続ける―― 「正義とやらを押し付けがましいと感じるかどうかは、相手への印象次第だ」 それが本心であった。出会った当初はあんなにも偽善っぽくて鬱陶しいとすら感じた聖女は、蓋を開けてみれば、やることなすこと全てが慈愛に基づいている。 ゆえに――やっていることを無駄だとか愚かだとか思う点は同じでも、嫌悪は感じなくなったのだ。 「それがお前の願いなら」 頬に触れていた手を離し、今度は肩にのせるに至った。布越しに伝わる熱をそっと撫でるように。 「俺は手伝おう」 ――成就するまで寄り添おう。 今この場で決めたに過ぎないが、不思議と頭の中は晴れ晴れとしている。自分の罪の贖いよりも何よりも、ただミスリアの為に旅を続けたい。それが、何処(いずこ)へ向かう旅だったとしても。きっとリーデンたちも異存が無いだろう。 「どうして……」 一度は止まったはずの涙が、今度はぽろぽろと大粒で流れた。どこに涙腺決壊のきっかけがあったのやら、すこぶる謎である。 「動機なら、そうしたいから、しか持っていない」 などと答えたら抱きつかれた。小さな身体にしては恐るべき勢いだ。 ゲズゥは抱擁を素直に受け入れた。 「私にもゲズゥのような強い精神があれば……ほんの、数割でもいいのに」 「必要ない。人を思いやる心がお前の強さだ」 「ありがとうございます」 次いで、くすりと笑う声が間近に聴こえた。 「貴方でよかった」 耳打ちで「道連れにしたのが」と追加される。突然の囁きは耳朶を打って脳を揺さぶった。 「私はもう迷いません。貫いてみせます」 腕を解いた頃にはミスリアはまた表情が変化していた。それはまた、見たことのない笑みであった。 年が明けた頃の記憶がふと脳裏を過ぎる。 最早これは、姉の幻影を追う己を空っぽな人間だと思い込んで、涙した少女ではない。 目的を新たに抱いて立ち上がった女だ。その微笑みに、茶色の双眸に、宿った光は苛烈だった。 「ではゲズゥ・スディル氏、これからもよろしくお願いします。私が目的を果たすまで、どうか傍にいてください」 「引き受けた」 なんとなく今度はこちらから抱き締めてやった。 小さな身体が腕の中でくすぐったそうに悶えても、簡単に放す気は起きない。 その時、瞬いたのはただの生理現象からであった。 ふいに浮かんだ、別れの瞬間への予感。 その日は近いのか遠いのか。 聖女ミスリア・ノイラートと道が別れる時がどんな場面か――何も明確なイメージが浮かばずに、ただ果てのない闇が瞼の裏にあった――。 |
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2015 / 12 / 05 ( Sat ) ミスリアがこっちに来る。 体調が悪いのか、人に当てられでもしたのか。そのことについて思案する為に、一旦咀嚼を止めた。混じり物騒ぎから一週間が経ち、ミスリアが目覚めたのは今日中のことだった。イマリナ=タユスでの過去例と比べると眠りこけていた日数が短い分、起き掛けの様子が変だった。 泣きながら目覚めたのである。 不吉な夢でも見たのかと問うても何も憶えていないの一点張りだ。直接の原因なのかはともかくして、それからミスリアは一日中元気が無かった。 案の定、天幕の群れから抜けてとぼとぼと歩み寄ってくる小さな影は、スカートの裾を両手で持ち上げながらも、俯いて肩を落としている。 「こんなところに居たんですね」 ミスリアはこちらの姿に気付いて、顔を上げた。少しだけ微笑みが表れる。 「人混みは別にどうでもいいが、他人に尽くされるのが面倒だ」 「……大変そうでしたね」 そう、宴の座に居ると、何かと里人が構ってきた。解放主だなんだと言ってもほとんど身に覚えのない行為だ。それをやたらと讃えられているというのは、ゲズゥにとっては薄ら寒いだけだった。リーデンのように好都合と捉えて最大限利用する気は起きない。 「きゃっ」 突如、ミスリアは四方から山羊にもふっと挟まれる。 「や――やめてください。危ないですよ」 毛深い獣たちは装飾品に興味を持ったのか、腰の飾りや腕輪などを甘噛みしている。 べぇ、べぇ、と返事をしながらも、山羊たちは引かずに擦り寄る。通常の山羊以上馬未満の巨躯に囲まれて、少女は飲み込まれてゆく。 助け船を出すことにした。ゲズゥは串の束を歯の間に収め、両手を使ってミスリアを拾い上げた。群れから数歩離れてから下ろす。 「すごいですね」 肩から振り返りながら、ミスリアの目線は串に釘付けになっていた。 「食うか?」 歯の間から取り出した合計三本の内、一本を差し出す。 「いえ、私はいいです。なんだか食欲なくて。どうぞ全部平らげてください」 そう言ってミスリアは自分が去ったばかりの天幕の方を見やった。 風に乗って、向こうから音楽が流れてくる。宴はなかなかの盛り上がりを見せていた。 数日だけで快復した女たちは、捕まっていた間の記憶があやふやで里の生活に再び慣れるのも早かった。むしろ身内の者たちの方が女たちの突然の社会復帰に戸惑っていた――もっと休ませるべきか否か、あまりに早い快復を喜ぶべきか訝しむべきか、心配のしどころがわからないかのように。 その温度差を埋めて全体のムードを無理にでも引き上げる為にも、宴が開かれたのだろう。 ちなみに無駄に顔立ちの整ったあの弟は、中央の広場で宴の渦中にいた。相手をとっかえひっかえしながらくるくるとステップを踏んでいるのがここからでもよく窺える。馴染みの無い踊りだというのに、回を重ねるごとに学習しつつさりげなく女にリードさせたりと、器用に誤魔化している。その世渡り術は一体どうやって身に着けてきたのか――あまり知りたくない。 「踊らないのか」 ふとそう問いかけていた。何せその横姿は、己のよく知るそれと相違していたからだ。 里の女たちによって現地の盛装に着替えさせられ、化粧や髪も惜しみなく整えられている。幾重にも重なった裾の長い衣の下では小柄な身体が更に小さく見えそうなものだが、そんなことは無かった。服の上からかけられた、鉱物をあしらったアクセサリーが華やかな印象を醸し出し、上半分だけまとめ上げられた髪には簪やビーズが多く編み込まれている。 仕上げには額をぐるっと囲ったヘッドネックレス。涙型の深紅の宝石が主役を飾るそれは、茶色の瞳の深みをうまく引き出していた。 ゲズゥにはそうする心理がよくわからないが、ここまで豪華に飾り立てたからには、人目に晒されながら宴を楽しむべきではないのか。 「いえ、私はいいです。今は、人がたくさんいる場所はちょっと気疲れしてしまうので」 「…………」 どこか納得の行かない答えだった。 「あの、何か?」 「だが物欲しそうに眺めている」 「え」 華奢な肩がぴくりと動いた。少なくとも、踊りたい気持ちはあるように思えた。 そこで一つ閃く。 「ここで踊るか」 と言っても、一人ではつまらないだろう。そう思って手を差し伸べる。 「え、えぇ!? ゲズゥは舞踏に造詣が深いんですか!? そ、それは確かに運動神経は良いのですし、弟さんもあの通りですけど」 「まさか。リーデンと一緒にするな」 「でも、私もあまり得意ではないです。馴染みの無い曲調ですし、二人してそうだと足踏んだり踏まれたりしますよね」 「……ああ。それなら最初から踏んでいればいい」 |


