1-2. h
2018 / 04 / 10 ( Tue ) ――そいつは、ダメだ。 扉を閉めた後の束の間の静寂。扉に向かってうなだれた頭の中には、昨夜の警告がよみがえっていた。(どうしよう) タクシーを呼んでも、到着するまでにどれくらいの時間がかかるのかは予測不能だ。逃げ場がない。 「イヤならイヤって、ガッツリいわなきゃダメだぜー」 ついさっき脳内に浮かんだのと同じ声が耳朶を打った。びくりと、大げさなほどに両肩が跳ねた。 なぜ。どうやって。神出鬼没そのものではないか。 「ミズチくん、ここトイレだよ! 鍵かけたけど!?」 涙目で振り返る。洋式便器の蓋を下ろして、その上に子供が頬杖をついて腰かけている。 今日は金魚柄の赤いTシャツにカーキ色の短パンという洋服姿だが、上下どちらもぶかぶかでまったく丈が合っていない。裾をひたすらにまくって無理やり着ているようだった。 「けっこーまえからいたし」 「……疑問が多すぎて逆に言葉が出てこない」 深いため息をついて、ゆみこはその場にしゃがみこんだ。 目線が低くなった途端、少年の脛辺りに五センチほどの切り傷をみつけた。その傷どうしたのと訊くと、忍び込んだときにやったんだろ、と彼はなんでもなさそうに答える。 かなり深く切れているのに血が出ていない。そう指摘してやると、ミズチは楽しげに傷口を広げてみせた。 「この姿のときはえぐってもめくってもなにも出ねーぜ」 「きゃあ!」 咄嗟に目をそらした。たとえ血が出ていなくとも、皮膚下の様子は生々しくていけない。くらっとした。抉っても捲っても、と彼は言ったのだろうか。 「そんなことよりさー。たすけてやろうか。おまえが望むなら、だけど」 「……やっぱりあの人、なにかが変なんだね」 「さっすが、ゆみにはわかったか」 「だって目が光ったし、死人みたいに冷たいし。怖いのに、怖がってたことがすぐどうでもよくなっちゃうの。さっきも栗皮ちゃんが来なかったら、ぼーっとしたままだった……」 「じょうできじょうでき。むかしよりも危険察知能力が発達してて、なによりだ。これにこりたらもうへんなやつについてくなよ」 まるで子供にするように、子供に頭を撫でられた。不思議と、嫌な感じはしない。 思い切って訊いてみた。 「きみにあの人をどうにかできるの」 「できる」不敵な笑みと、妙に説得力を感じるひと言だ。「おまえは四分ちょい、じかんをかせげ」 唯美子はしゃがんだままでうなずいた。何ゆえ四分なのかとか具体的に何をするつもりなのかとか、疑問がなくなったわけではないが、彼の言葉を信じてみようと思った。 「ねえ、どうして助けてくれるの」 「ゆみが望んだから」 「なんでわたしが望めば、助けてくれるの……?」 「ないしょ。ゆみがじぶんでおもいだすまでは、おしえねーよ」 そう言って、ミズチはデコピンしてきた。予想外に痛い。 「……きみの瞳も光るのに、なんでかな。こわくないよ」 「んー? そうかあ? こわがってくれてもいいぜ」 少年は屈託なく笑った。欠けた歯が惜しげなくあらわれる。 「そんなにかわいく言われたら、ますますむりかな」 「じゃあ役得ってやつだ」 「なにそれ」 ミズチが「えへへ」と笑うのでつられて笑い返す。 唯美子は膝に両手を当てて、立ち上がった。 「あの、めんどうかけて、ごめんなさい」 「いーってことよ。おいらが、ゆみをまもるから」 小さな体のどこにこれほどの力があるのか、力いっぱい背中を叩かれて、唯美子はたたらを踏んだ。 お待たせいたしました。誕生日に親が遊びに来たのであちこち行って遊んでました( そんな属性をつけたつもりはなかったんですが、どうやらミズチは変な柄のシャツが好きなようです。 |
1-2. g
2018 / 04 / 04 ( Wed ) 「そこまで言うなら、わたしもまずブラックで味わってみます」
セラミック製の小型の水差しを手放し、マグカップを両手で持ち上げる。 黒い液体は顔に近付けるにつれて芳香さを増してゆく。しばしためらっていると、鼻先が湯気で湿気った。 「無理することないんだよ」 返答の代わりに唯美子はひと口飲んでみた。 苦い。知れたことだが、混じり気のないコーヒーは苦い――落胆して顔をしかめたところで、思わぬ甘やかな後味が舌を撫でた。もう一度口を付けてみる。もっと多く飲み込んでみると、今度は苦さのインパクトと一緒に、別の味が舌を打った。 「フルーツっぽい……?」 「チョコレート・ラズベリーだって。味付きのコーヒーは僕はそんなに好きじゃないけど、女性には人気らしいね。どう、いける?」 「はい、これなら何も加えなくても飲めそうです。フルーティと言っても甘いだけじゃなくて酸っぱいようなコクがあるような」 「気に入ってもらえてよかった」 「笛吹さんのは違うんですか」 「スマトラブレンドだよ。飲んでみるかい」 差し出されたマグカップを、間接キスにならないように、さりげなく回してから口に触れさせる。 結論から言って強烈な味だった。ついでに変な匂いがする。口元を震わせながら、カップを返した。 「わたしには早すぎたみたいです」 「あはは、気にしないで。口直しにケーキを食べるといいよ」 「そうさせていただきます」 イチゴがのったチーズケーキを堪能する傍ら、他愛のない話をいくつか交わした。お盆の予定はあるのか、海で日焼けをしたのか、ペットは飼っているか、などと。 車内と比べるといくらか自然に、リラックスして会話ができた。 笛吹は動物に嫌われる体質らしく、道行く野良猫にもれなく襲われるのだという話をした時は、お互いに声に出して笑ったほどだ。 次第に、マグカップの底が見えてきた。壁にかけられたアナログ時計を瞥見し、既に店に入ってから三十分が経っていることを知る。お開きにするべきかもう一杯頼もうか、唯美子は迷った。もう少し話していたい気もするし、やはりそれはやめた方がいい気もする。 ふいに、目が合った。 (この人も一瞬、光って……?) 黒い瞳の奥に、炎のような激しさを見た気がした。それは決してありきたりの光景ではないはずなのに、視線を交えていると、脳の芯が溶けるようで何も考えられなくなる。 すべてが些事だ。陶酔感が、胸に広がってゆく。 「きっかけは不穏だったけど、こうして二人で会う機会ができてうれしいよ。きみとは気が合いそうな気がしていたんだ」 そんなことを言われたのは初めてだった。何と返したらいいかわからない。 「この後、食事に誘ってもいいかな。イタリアンなんてどう」 意図せず点頭しかける。 了承し終える前に、邪魔が入った。茶色の翅をしたトンボが弧を描いて飛び過ぎ、唯美子の手の甲に停まったのである。 昆虫の足が触れたくすぐったい感触に、我に返った。どもりながらも声を出す。 「う、いえ、今日この後はちょっと都合が悪くて。すみません」 金曜で明日は仕事も休みだ、都合が悪いという断り方は、無理があるかもしれない。 けれども、いくら話が弾んできたと言っても、食事のムードはまだ無理だった。むしろどうして「はい」のひと言を舌が発しそうになったのかがわからない。どうかしている。 「その虫――」 トンボと笛吹が睨み合っていた。心なしか、男性の形のいい切れ長の双眸が、強い感情に歪んでいる。敵意だ。 (栗皮ちゃん?) ふと唯美子は、店内が未だにガランと空いていることを意識した。 嫌な予感がする。 「すみません、お手洗いに行ってきます」 相手の反応を待たずに、バッグを鷲掴みにして席を立った。 |
三月に読んだ本をまとめよう!
2018 / 04 / 02 ( Mon ) と、読メに言われたので、久しぶりにやります。漫画率多かったけど、やっぱりイサックがすごかった印象ですね。もちろん、十画館と黒い季節も強烈でした。
注:感想はネタバレも含んでます 3月の読書メーター 読んだ本の数:8 読んだページ数:1872 ナイス数:56 ![]() アニメに際して再読。こんなエピソードあったっけとか登場人物が出てきた順番を完全に忘れていた…。チセの過去にこんなに前から触れてたのか… 読了日:03月26日 著者:ヤマザキコレ ![]() ぎゃひい! 相変わらずいいところで終わりおって… 続きはいつ出るのォ! 読了日:03月22日 著者:DOUBLE-S ![]() 面白かった。館シリーズはこれが初めてだが、なんていうか、アートだった。島田さんとはまた会えるのだろうか? 綾辻先生の他の本に手を出すべきか迷っている…。 読了日:03月20日 著者:綾辻 行人 ![]() 相変わらず画がすごい。人種の顔の描き分けも。この巻では物語の核心に触れる瞬間があったりして、ドキドキハラハラした。プリンツへの好感も上がった。今月中に次の巻が出るとしって今から待ち遠しい(これアニメ化してくれないかな… 読了日:03月08日 著者:DOUBLEーS ![]() DOUBLE-S氏は死がふたりを~から好きで、あらすじもどう考えても面白そうだったから購入。レビューだと人間ドラマが物足りないと言う人もいたが、私はこのストイックさに感じ入るものがあった。イサック、よい。もちろん、頑張る娘さんもよい。 読了日:03月08日 著者:DOUBLEーS ![]() 読んでいた最中は色々思ったことがあったけど、読み終わった今ではただ余韻に浸りたい気分…。全ての登場人物に深く感情移入し(悪役にすら)、全員に幸せになってほしいと切に願いながら読んでいた。これは、絶対二度以上は読みたい一冊。 読了日:03月07日 著者:冲方 丁 ![]() エンタメとしての完成度は相変わらず高い。謎のつなぎ方や展開の勢い、登場人物の人間臭さが好き。十三人目が殺人鬼なのは妥当かなと思ったけど、正体を知った時の「やべえ想像してたよりずっと怨念抱えてそう」とか「これはめっちゃ追って来るぞ」みたいな気持ちで、夜中にトイレに行くのが一瞬怖かったのは白状しよう。天使の囀り、青の炎、悪の教典に続いて本作を読んだ今、貴志先生作品では男女は結ばれないものだという結論に至っている。最後は、ホラーとしてはテンプレな終わり方かな。ひとつ解決しても、環は閉じず… 読了日:03月06日 著者:貴志 祐介 ![]() ゆっきー…こじれてんなぁ。出雲、シュラとヒロインたちの問題をひとつず払拭して結束を固めている流れの中、最後(?)に雪を持っていくのは当然に思える。同年代グループで彼だけが生徒でなく先生だったのが、心を打ち明けられる仲間を作るむずかしさを助長したようだ。世界は変わりつつある。今後の展開が楽しみ。 読了日:03月01日 著者:加藤 和恵 読書メーター |
1-2. f
2018 / 04 / 01 ( Sun ) (都会の電車なんて三分ごとに停まったりして、効率が悪そう)
会話と関係ない思考がよぎったのは、落ち着かなさゆえだろう。 「へえ、ひとり暮らしなの」 「そうです。笛吹さんは?」 質問されてばかりなのが気になり、唯美子は訊き返してみた。 「僕は会社から車で十五分、山の上に一戸建てを持ってるよ」 滑らかに車を左折させながら、彼はさらっと答える。 「すごいですね」 「そうかな」 二十代後半という若さで家を買ったのか。唯美子は驚嘆した。もしかして何かタネがあるのかもしれない。自称した年齢よりもずっと年上だとか、親族から相続したとか……。 あれこれ考えているうちに目的地に着いてしまった。シートベルトを外してバッグを肩にかけて、車から出るのにもたついていると、颯爽と助手席側に現れた笛吹がドアを開けてくれた。 差し伸べられた手を取るべきか、逡巡する。紳士的行動を、親切を拒否しては相手を傷つけかねない――そう結論を定めて、やがて唯美子は手を取った。 真夏だというのに笛吹の手の平は氷水のようにひんやりとしていた。漠然と抱いていた不安を、より一層と深めるような冷たさである。 地面に降り立ったが早く、手を放した。 (あからさますぎたかな) 内心では冷や汗をかいたものだが、当人は気を悪くした風でもなく、朗らかに「ここのコーヒーとチーズケーキは格別に美味しいんだよ」と言って先導している。しかも明らかに足の長さが違うのに、こちらの歩調に合わせてくれた。 困惑気味に後ろに続いた。 ――この人はこんなにやさしくしてくれているのに、どうして自分はその所作に、いちいちうがった見方をしてしまうのだろう。 唯美子は小さく首をひねった。異性に対して警戒心が強い方なのは自覚しているが、体温までをも深読みするのはさすがにおかしい。 ――カランカラン 入口にかかった鐘が立てた小気味いい音が、思考を中断させる。 「漆原さん、注文は僕が決めてもいいかい」 「はい、お任せします」 「お菓子とかは?」 「えっと……それもお任せで。わたし、食べられないものはないと思います。なんなら、さっき言ってたチーズケーキでも」 「わかった」 それから笛吹は、マスターと親しげな挨拶を交わした。 「挽きたては何があるんだい」 「そうですね、本日は――」 二人は呪文のような固有名称を応酬した。おそらくは、豆の種類について話しているのだろう。大体インスタントで済ませてしまう唯美子には、どこの秘境やらどこの国の高山やらからとった豆の違いはわからない。 手持ち無沙汰なので、店内を見回すことにした。 六席のバーカウンターに、四角いテーブル席が八組、ブース席はなし。赤茶や黒を組み合わせたシックな内装で、照明も淡くムーディーな黄金色を使っている。ローストコーヒー特有の香ばしさが空気中に漂っていて心地良い。ジャズだろうか、ゆったりとしたサックスやピアノがスピーカーから流れている。 雰囲気はとてもいい。ざわついていた心が少しはまともに戻れそうだった。気がかりなのは、他に客がいないことだけだ。 テーブル席に腰かけて注文が届くのを待つ間も、そこに意識を向けずにいられない。隣の空いた席にハンドバッグを下ろし、笛吹と向かい合って座った。 「貸し切り状態ですね」 「夕食の時間帯は、客足が遠のくものかな。ゆっくり話せるから、ちょうどいいんじゃない」 そう返されては微笑むしかなかった。 豆がゴリゴリと挽かれていく音が、穏やかな店内に響く。僅かばかり続いた、唯一の不協和音だった。 壮年の男性マスターが、大きめのマグカップ二つと皿に盛った可愛らしいチーズケーキを持ってきた。ごゆっくりどうぞ、と目を細めて笑ったのに対し、ありがとうございます、と答える。 唯美子はミルクの入った小さな水差しを手に取ったが、笛吹がマグカップをそのまま口に近付けたのに気づいて、ふと口に出した。 「笛吹さんはブラックで飲む派なんですね」 「まずは純粋に味わわないと、失礼だからね。コーヒー豆そのものにはもちろん、その豆を育てた人や焙煎した人、挽いては淹れてくれた人にも……あ、これはあくまで僕の美学であって、きみがどんな飲み方をしたっていいんだけど」 こちらの手が止まったのを見て、彼はそう付け足した。 |
1-2. e
2018 / 03 / 29 ( Thu ) 唯美子は某表計算ソフトとにらめっこをしながら、昨夜「ごちそうさま」と言ってもらえなかったことに対して、時間差でショックを受けていた。 (きっとあの子の国にその習慣がないだけだよね)過ぎたことを気にしてどうするのかという話だが、なんとなく、もう一度会いそうな気がしていた。二度あることは三度ある。次会ったら教えてやろう、そう心に決めた。 計算式の最終チェックやメール返信を済ませるうち、背後から足音が近寄ってくることに気付いた。振り返らずに己の作業を進めていると、その者が話しかけてきた。 「漆原さん、そろそろあがれそう?」 肩越しに爽やかな声が届いた。経理課の笛吹秀明である。 社に残っている周りの人間――主に山本女史や田嶋女史といった彼に興味を抱いている女性――の注目を浴びてしまわないかと内心ヒヤッとしつつも、振り向きざまに返事をする。 「はい、あと少し」 定時を過ぎてまだ数分といったところだが、今日はこの通り約束がある。そのつもりで仕事をさばいてきたし、幸いと残業の必要もない。 「じゃあ僕は下で待ってるよ」 そう言って、長身の男性は踵を返した。 「あの人気者とデートだなんて、どうやったの」 唯美子がパソコンの前から立ち上がるのを見計らって、隣の席から年配の女性がオフィスチェアを転がしてきた。内緒話をするみたいに手の甲を口元に添えて。 「誤解ですよ。この前助けてもらいまして、お礼にコーヒーをおごらせていただくだけです」 「お礼にコーヒーねえ? 後学のためにおぼえておくわ」 「だからそんなんじゃ……」 困ったように唯美子は笑った。こういう時、もっとうまく返せたらいいのにと常々思う。恋愛方面にからかわれるのはどうも苦手だ。 お先に失礼しますと挨拶だけして、逃げるようにその場を後にした。 「お待たせしました」 「お疲れ。さっそく行こうか」 こちらの姿を認めて、笛吹はスマホをコートのポケットにしまった。入れ替わりに同ポケットから車の鍵を取り出している。 「運転するんですか?」 驚きを隠せずに訊ねる。行き先は余裕で徒歩圏内のはずだった。 「ああ、駅前のチェーン店もいいけど、僕の行きつけの店を紹介しようと思って」 「そうですか……」 不安そうな表情を浮かべたかもしれない。後退りそうになるのを、なんとかこらえる。 「味は保証するよ。ごめん、さっき思い付いたもので。駅前の方がいいなら無理にとは言わないけど」 「あ、だ、大丈夫です。笛吹さんのおススメの方に行きましょう」 唯美子は慌てて取り繕った。 「ありがとう。車を回してくるから、ここで待ってて」 はい、と短く返事をする。 イケメンが高そうな靴を鳴らしながら駐車場へ向かった様は優雅そのもので、他意は感じられない。 (なのに、この落ち着かなさは何だろう) よく知らない男性の車に乗り込むのに、抵抗をおぼえるのは当然だ。だが一度は承諾してしまった以上、途中で「やっぱり気が変わった」と言い出すのは気が引ける。 ヘッドライトの光が近付く間に最後の迷いを振り払った。観念して、助手席に滑り込む。 密閉空間で成人男性と二人きり――会話はかろうじて続いたけれど、少しでも沈黙すると、息苦しさを感じた。窓を開けても、代わりに入る空気は夏の夜の淀みに満ちている。 「漆原さんは会社から近いとこに住んでる?」 「近いと言うほどでも……二つ先の駅です」 ただし、田舎でいう「駅二つ」はそれなりの距離である。 |
1-2. d
2018 / 03 / 26 ( Mon ) (ひらがなが読めないのかな)
珍しいこともあったものだ。通常ひらがなからカタカナへ、果ては漢字へと順に教えられるものではないか。彼の家庭事情を気遣って、唯美子は訊ねることができなかった。 (それに漢字も。意味はわかってたみたいだけど、音読みですらなかったような) 流暢な日本語を話しているのに、外国の子だろうか。謎だらけだ。 (既読ついちゃったから、返事書かないと) 大丈夫でs――まで入力したところで、視界が急にぼやけた。 両耳と鼻にかかっていた圧が消えた、つまり眼鏡を取られたのだ。 「こら、なにするの。返して」 取り返そうとするも、子供は絶妙に上体を捻って、唯美子の手の届く範囲から逃れた。 「ゆみは『いく』気なんだな」 「うん? もともと約束を取り付けたのはこっちからだよ?」 というより、たったあれだけの文面でこの子は、自分がどこへ行くと思ったのだろう。 「よくしらないやつとふたりきりで会うんだろ」 ずばり、言い当てられた。 「それを言うならまったく記憶にないきみとふたりきりで晩御飯を食べたけど」 「おいらはいーんだよ。そいつは、ダメだ」 ぎくりとした。 冷たい、声だった。幼児にこんな声音が出せるものかと思わずたじろいだほどだ。黒い視線も、同様に冷たい。どんな感情で「ダメ」と言われているのか、唯美子にはわからなかった。 その双眸を見つめ返していたら、瞳の奥が光ったようだった。視界がぼやけているのに、それだけがはっきりとわかった。 「あ、あのミズチくん、眼鏡返して。それがないとわたし、家の中でもすっころんじゃうの」 威圧に負けて、目を逸らした。その間にどうやら少年は眼鏡を自分でかけてみたらしい。 「うぅわ……わざわざこんなもん使って……あたまいたくなんねーの? 多少みえなくたって、しにゃしねーだろ」 「死ななくても生活しづらいんだよ。特に現代はね、視覚情報に大いに偏ってるの」 あくまで個人的見解ではあるが。 「ふーん。まあいいや」――慣れない手つきで彼は眼鏡をあるべき場所に戻してくれたので、視界がクリアになった――「おまえがそのつもりなら、こっちにも考えがあるぜ」 唐突に話も戻った。 思えばどうして、会って間もない子供に自分の明日の予定を語らなければならないのだろう。むっと眉をいからせ、目と鼻の先の彼を睥睨する。 視線を交えたまま少年は赤い舌をちろちろと、歯の間から出入りさせる。何気ない動作はまるで無意識の癖のように、自然と繰り出された。 「きみには、関係ないんじゃ、ないかな」 「そう、かも、な」 彼はわざとらしくゆっくりと答えた。そして身をひるがえし、窓に向かっていった。 「ま、まって。ききたいことがまだたくさんあるよ」 半ば衝動で引き留めた。 「たとえば」 「どうやってわたしの住んでるアパートを見つけ出したの……とか」 最初に会ったあの浜辺は別の県にある。連絡先を交換したわけでもないのに再び会えた、この事実はどう考えても普通ではなかった。 ぶうん、と羽音がした。 一対の大きなトンボが少年の肩にとまる。いつか見たのと同じ、青と茶色の二匹だ。 「そりゃー鉄紺と栗皮にさがしてもらったにきまってるだろ。こいつらな、特定の気配ってゆーか、魂の痕跡を追跡できるんだぜ」 虫を指さしながら、また当たり前のように小難しい話をしている。 そう思ったが、次いでミズチは窓枠に片足をかけて「こんせきをついせき……せきせき……なんかへんな響きだな。これであってるんかな」と自信なさげに呟いた。受け売りだろうか、どこまでうのみにしていいものかわからない。 「とにかく明日はきをつけとけよ。じゃ」 「えっ」 ――危ない! 急いで窓辺まで駆け寄り、外を見回した。暗がりの中で、怪我にうずくまる子供の姿を探し求める。 だが、そこには何もなかった。いくら目を凝らそうとも―― 街灯の照らす地上には人どころか小さな影のひとつも浮かび上がらない。 * |
1-2. c
2018 / 03 / 22 ( Thu ) その箸の持ち方がまた独特だった。上と下を先端から開閉する動きではなく、クロスさせた二本の隙間を縮めることでものを挟んでいる。それも、左利きで。 「スプーンの方がよかったかな」不慣れなものを使わせてしまったかと気を遣う唯美子に対し、ミズチは「んー」とだけ返事をしてお椀を片手で持ち上げた。 ものすごい勢いでかき込んでいる。よほど美味いかよほど不味いかのどちらかだと予想し、身震いした。 「煮物ね、ダシ入れ忘れて後で気付いてつけたしたの。ちょっと味薄めかも……大丈夫? まずくない?」 「うまいよ。たぶん」 無頓着そうに彼は応じる。 (たぶんってどういう意味だろ。そんなに微妙だったかな) これには、ちょっと傷ついた。というのも、唯美子の料理は必ずどこかでなにかが抜けている、とよく評されるからだ。気を付けているつもりなのだが、たとえレシピ通りに作っていても何かを入れ忘れるなり下ごしらえの手順を飛ばすなりしてしまう。 「でも肉たりない」 「ごめんね。今週高かったから、少なめでいいかーって」 見ず知らずの彼の要望を考慮して献立を組んでいるわけではないのに、つい謝った。 「ふーん。くえるときにくっとけよ、倒れっぞ。ただでさえほそっこいのに」 「う、うん」 それきり少年は黙り込んだので、テレビの声だけを供に、唯美子も食事を済ませた。 洗い物をしている間、ミズチは険しい表情でテレビを睨んでいた。殺人事件に関係がありそうな、どんな情報でもいいから連絡してほしいという視聴者への呼びかけで、報道はひと段落した。 「ねえ、きみの服……」 居間に戻るなり唯美子は質問しかけた。 「これか。童水干っていうらしいな。たぬきやろーに、面白がってきせられた」 ミズチは腕をばたつかせ、長い袖をうっとうしそうにみやる。 「えっと、その『狸野郎』さんは、きみの保護者なのかな」 「ちっげーよ。やどぬしだ。天気がわるいときに泊めてもらってるてーどの仲だよ」 宿主、と唯美子は口の中で単語を反芻した。 「天気が悪い時だけ?」 「晴れてるんなら、公園でねりゃいーだろ」 「あはは……」 やはりこの子供はおかしい。言動に、言葉選びに一貫して不自然さがにじみ出ている。補導されずに幼児が公園で夜を明かせるはずがあろうか。 おかしいのは言動だけではない―― 唯美子がおかっぱ頭だったのは小学校低学年までだ。後にツインテールに移り、ストレートセミロングや、何を血迷ったのか姫カットを試したこともあったが、最終的にボブに落ち着いた。それから会社勤めを始めてちょっと経つ頃、パーマに興味を持つようになったのである。 要するにミズチは小学校低学年までの唯美子を知っていると主張しているのだ。 少ない想像力を総動員して、考え込む。 (肉体の成長が止まった病気……ううん、それならわたし、どうしてこの子をおぼえてないんだろう。おばあちゃんからわたしの話を聞いて、思い出を捏造した、とか……?) 可能性としては後者の方が比較的苦しくない、気がする。 問い質すつもりで少年を見つめた。 その時、座布団に放置していたスマホが軽快な電子音を発した。チャットアプリからの通知だ。 内容を確かめようとして手を伸ばすと、ミズチが先に素早くかっさらっていった。眼前までスクリーンを寄せて、眉間にしわを刻んでいる。 「めん、る、ぎょう……なんだこれ」 「え、そんな暗号めいた文章を誰かが送ってきたの」 「わかった! 『あした』『いく』か」 少年がドヤ顔でスマートフォンを渡してくる。文面をみなまで確かめると、正確な内容は―― 『こんばんは、明日まだ行けそう?』 ――だった。 不思議とミズチは、漢字部分しか読もうとしなかったのである。 |
1-2. b
2018 / 03 / 19 ( Mon ) 「どこって、窓あいてんじゃん」
少年は悪びれずに親指で背後をさす。そういえば居間の窓は網戸がなく、全開だ。十歳以下の子供の小さな体躯であれば余裕で通れる幅である。 問題はそこではなかった。 「あの、ここ、三階だよ」 「三階だな」 言わんとしていることが伝わらなかったらしい。我が物顔でちゃぶ台の前にちょこんと座った少年に向かって、唯美子はいま一度問う。 「梯子なんて出してなかったよね。どうやって上がってきたの」 「ベランダ伝えばらくしょーだし」 少年は鼻で笑った。果たして彼が言うほど楽にできることなのか首を傾げざるをえないが、自信満々に言うので、そういうことにしておいた。 (押し入りの常習犯……? にしてはなんか……) 金目のものを探している風ではない。けれど子供の姿で相手を油断させて、実は大人の共犯者がいたりするのかもしれない。この物騒な世の中だ、どこに危険が潜んでいるのか誰にもわからない―― 黒い双眸が丼をじっと睨んでいた。 まるで初めて出会う料理を前にした時のように、唇に指をあてて何かしら考え込んでいる。ついにはちゃぶ台のふちを両手でつかみ、丼に鼻を寄せてひくつかせた。微かに立ち上る湯気を嗅いでいるようだ。 もしかして、と声をかけた。 「きみ、おなかすいてるの」 「んにゃ別に」 即答すぎてかえって疑わしくなる。 「意地張らないで正直に言ってもいいんだよ」 「ほんとだって。はらへってねーけど、それ、どんな味すんのかなって気になってるだけ」 「じゃあ食べてみる?」 唯美子が提案した途端、その子はわかりやすく顔を輝かせた。 無邪気そうな表情だった。一緒になってはにかんでしまう。 正体が物乞いでも押し入りでもいい、少なくともこの瞬間では、無害な児童にしか見えなかった。 (まあいいよねこれくらい) 独身生活を寂しいともつまらないとも思ったことはないが、誰かと食事ができるなら、それに越したことはないのである。 立ち上がりかけて、唯美子はぎょっとした。視界の端で少年が、丼に右手を突っ込もうとしている。 「ちょっと! お行儀悪いよ! きみの分の食器いま持ってくるから」 慌てて叱りつけると、不服そうな顔が返ってきた。 「そういえばそんなもんがあるんだったな。ニンゲンはめんどくせえなあ。それにギョーギってなんだ。ギョーザ?」 「お・ぎょ・う・ぎ。作法や礼儀のことだよ」 「れーぎ、ね。わかった」 わかってくれたか、とひと安心して踵を返す。まったくこの子の親はどういうしつけをしている――考えかけて、そういえば「親なんていたことない」と主張していたのを思い出す。言葉通りではなく、親と思えるような人間がいなかった、の意味だろうか。 さすがにこの歳で保護者がいないのはありえないはずだ。 唯美子は丼と同じように盛ったお碗と箸を手に戻り、まじまじと少年を見下ろす。太っていなければ痩せすぎてもいない、十分に健康そうな肉付き具合である。 身なりも、汚いという印象はない。むしろ服はきれいだ。 ――なぜか今日は、浴衣ではなく時代劇みたいな和装をしているが。 (七五三……違うか。平安時代の衣装っぽい) 陰陽師映画にでも出られそうな感じだ。撮影会か何かから逃げ出したのだろうか。 「えっと――」とりあえず声をかけようとして、なんて呼べばいいのかわからないのだと気付く。「きみ、お名前なんていうの」 奇妙な間があった。少年はじっとこちらの表情を窺っているような目をしている。 「おいらは、みずちだよ」 「ミズチくん?」 いざ口にしてみると、聞き覚えのある音の羅列のように思えた。神話か民話の化け物だった気がするが、そういったものよりももっと身近に感じる。 「べつにそれ名前じゃねーけど」 「え? 違うの?」 「厳密にはちがうけど、まあいちばんわかりやすいから。よんでいーよ」 まるで話題に興味を失くしたみたいに、ミズチと名乗った少年は箸を手にした。 |
1-2. a
2018 / 03 / 16 ( Fri ) 『先日、〇〇市〇〇区にて女性の刺殺体が発見された件についての続報です』
フライパンで野菜を炒めていた唯美子は、物騒なニュースに反応し、箸を動かす手を止めた。 しかし換気扇がうるさい。 これでは続きが聴き取れない。一旦火を弱めて箸を置き、居間のテレビの音量を上げに行った。 『去年十一月に〇〇県でも女性が発見された事件や一昨年の〇〇県での事件との関連性が懸念されており――』 ちゃぶ台に積み重なっていた新聞の下を探る。ほどなくリモコンを発掘することに成功し、「音量を上げる」ボタンを連打した。 満足した唯美子は、キッチンに戻って夕飯の支度を終えた。 『手口や発見場所が違ったものの、いずれの事件でも死体から内臓がごっそりなくなっている点が共通しており、犯人はまだ捕まっておらず――』 丼にごはんを盛り、その上におかずを仕分けてのせる。いただきます、と軽く手を合わせてから食事に至った。 作ったばかりの炒め物に残り物の煮物、某市場で買った佃煮で、三品。独り暮らしにしては頑張った方の日であろう(ちなみにこの盛り方は使用する皿の数を、すなわち洗い物を減らすためである)。頑張らない日には主に冷蔵庫にあるもので煮込みうどんを作って済ませている。 海での短い休息から数日経って、木曜日になっていた。後一日働けば週末だ。 夢中遊行――と呼んでいいのかはわからない――はあれきり発生していない。 真希に相談した時には検査してもらった方がいいと騒がれたものの、気が進まないので、様子見になっている。二度目があったら受診するつもりだ。 (あの時の真希ちゃん面白かったな) 野菜を咀嚼しながら、くすりと思い出し笑いをする。 皆のあこがれの的である男性に助けられた挙句、夜道を二人で歩いたのだ。こちらに感謝以上の感情がなくとも、事の顛末を聞いた真希が羨ましがったのも仕方がないだろう。 『――県警はこれまでに捜索願が出ている女性のリストを改めて検証しているそうです。その辺り、先生はどうお考えですか』 丼から顔を上げると、いつしか画面が切り替わっていた。中年の男女が向かい合って座っている。犯罪心理学の専門家だという男性が、犯人像について語るようだ。 唯美子は論議に注目した。怖いが、つい気になってしまう。 『こういった連続的犯行に及ぶ人間は、被害者を選ぶに用いるパターンと言いましょうか、好みがあるものでしてね』 彼らは深刻そうに声を潜め、それでいて、アナウンサー特有のハキハキとした語調を崩さない。 思わず箸を置いて見入ってしまう。 『でもこれまで見つかっている三件の被害者は服装や髪型もバラバラだったんですよね?』 『ええ、そこが問題ですね。現状、共通しているのは全員が若い女性だという点だけで、犯人がどうやって次の犠牲者を選んでいるかはほとんど見当がついていません』 また画面が切り替わった。これまで発見された女性たちの顔写真と短い紹介が並べられる。 左から順に――ぽっちゃり気味の穏やかな表情をした主婦、化粧の濃い短髪の女子高生、無表情で巻き毛のボブを茶色に染めた大学生。 なるほど、共通点は見当たらない。 「へー、ころされたヤツら、こんなんだったんか。みぎ端っこの女、ゆみに似てるな。髪色ちがうけど」 突然。実に、突然だった。 ひとりだけの空間に、他者の声が響いたのは。しかも耳元で。 「!?」 驚いて唯美子は膝をちゃぶ台の裏にぶつけた。痛みにしばらく動けずにいると、声の主は構わずに話し続けた。 「なあ、まえは黒髪おかっぱだったよな。なんでいまはワカメみたいな頭になってるん」 「……これはパーマです! デジタルパーマ! ワカメ言わないで」 いつか浜辺で遭遇した少年に向かって、抗議した。 「デジタルってなんだよ、サイバー空間でやってもらってんの? ちょっとはなれてたあいだに日本もすすんだなー」 つぶらな瞳が好奇心旺盛に見つめてくる。 「ちが――ううん、なんでデジタルって呼ぶのか、わたしにもわかんないけど。そんなことよりきみ、どこから入ってきたの!?」 すでにストックが底つきそうだけど気にしないよ… |
ホシイモノw
2018 / 03 / 14 ( Wed ) どうもどうも。
最近(また)手元のお金が増えつつある甲です。 冲方丁「黒い季節」に甲(かぶと)という名前のキャラが登場してドキッ♡としたのはどうでもいい話です。 さて、お金が増えたからには今まで節約してた人生に報いてちょっと浪費するぞー! と意気込む時もあります。しかし私の考える浪費とは 1)高いものを食べる 2)小説・漫画・CDを買うなどクリエイターに投資する 3)親に何か買ってあげる なので、なんだか何も変わってない気がします。親も貧乏性が根付いているので大したものをねだりませんw かろうじて二人で3ケタ(100ドルちょい)の食事はしましたけど…。これが、我々の「お祝い」レベル。 職場の先輩が「先週、恩ある人へのお礼として高いところに行ったんだけど、一口ずつが昇天しそうなレベル」と言うのでそのブルジョワなホテルレストランを調べてみたところ、一番高いワインが一本$4ケタでした。200000円以上とかなのです。別に彼がそういうレベルで飲んだとは限りませんがw さぞや素晴らしいお味のでしょうけど、一本800円相当で美味しいワインを数本飲んだ方が「バリューある」と満足できる私は、やはり価値観からしてブルジョワになれないのだろうなと自分で自分に安心しています。何の話だ。 ライブ演奏をたくさん見にいこうという気持ちはありますけどね、まだVIP席を買う気にはならない。ちなみに旦那の強い希望でBABYMETAL行きます。ワロス おっと、サイトのHTML組まないと。 二話の更新は明後日くらいからスタートしようと思います。 |
1-1. f
2018 / 03 / 13 ( Tue ) 「うぇ、まっず。やっぱ塩水まっずいなー、こんなとこにすむ奴らの気が知れねー」
助けてくれた人物は背を丸めて唾を吐き出している。すぐに気を取り直したように、唯美子の傍に来た。 「おい、しっかりしろ」 頬を叩かれた。顎に響くほどの衝撃で、麻痺していた皮膚に活気が戻るようだった。 お礼が言いたいのに、返事をしているつもりなのに、喉からは呻き声しか出ていなかった。 震える腕をふらふらと伸ばした。受け止めてくれた手は力強く、ほんのりと温かい。 「あーあ。全っ然、克服できてねーじゃん」 吐息のように微かな呆れ笑い。小馬鹿にしたような言動の向こうに、確かな心遣いがあった。その話し方に、既視感をおぼえる。 (だれ?) 月からの逆光で相手の姿はよく見えない。 疑問の答えに辿り着ける前に、男性がいきなり黙り込んだ。かと思えば鋭く舌打ちをした。 「いまみつかるのは得策じゃねー……またあとでな、ゆみ」 あっという間に気配が消えた。 (まって、いっちゃ、やだ) 取り残された唯美子は、わけもわからずに猛烈な寂しさをおぼえていた。 短い間、気を失っていたらしい。 頭痛にめまい、更にぐわんぐわんと頭の中でおかしな音が鳴っていたところで再び目が覚めた。 「大丈夫かい」 瞬く度に、視界の角度がわずかに変わった。誰かにそっと抱き起こされたようだ。 至近距離から覗き込む端正な顔には見覚えがあった。ウェットスーツに身を包んだ彼は会社の経理課の先輩、その名も。 「うすい……さん?」 よかった、と彼は安堵のため息をこぼした。 「曇ってたけど諦めきれなくて、波の様子だけでも見てみようと思って出て来たんだ。よかったよ。たまたま僕が通りかからなかったら、どうなってたことか。きみはひとりで何をしてたんだい」 「わかりません……目が覚めたら海の中で……あの、あなたがわたしを助けてくれたんですか」 「間に合ってよかった」 どうも会話がかみ合わない。かみ合わないと言えば、陸に上がった前後のあやふやな記憶と現状に齟齬を感じていた。 目の前の彼とは別の声が耳の奥に残っている。もっと言葉遣いや声音が荒い感じだった気がするが、頭が痛くて考えがまとまらなかった。 ――助かった。あの黒い海から生還した。今は、それしか考えられない。 「本当によかったです」 泣いているのをさとられないため、顔をそむける。すると視線の先、つまり脇腹に逞しい手があった。狼狽した。一旦意識してしまえば、そこの感覚のみが何倍にも拡張されてしまう。 察した笛吹がパッと手を放した。 「失礼。必死だったもので」 「い、いいえ」 「戻ろうか。立てそうかい」 「平気です、ありがとうございます」 これ以上世話になるのも悪いと、よろめきながらも自力で立ち上がった。 先導する背中をぼんやりと見つめる。ウェットスーツが濡れていないように見えるけれど、そんなはずはない。見間違いだろう。 (あんなに手が冷たかったんだもの) 無意識に脇腹をさすった。まだ感触が残っている気がして、頬が熱くなった。 訊いてしまえば早い。が、とにかく宿に戻って風呂に入りたい唯美子は、他のことは後回しでいいと判断した。笛吹だって一刻も早く温まりたいに違いない。 はやる気持ちに応じて、砂を蹴る素足に力を入れた。 ここまでで一話でした。いかがでしょうか。わかりやすい謎と、わかりにくい謎を混ぜたつもりです。次話から大きな動きがあります…たぶんw ゆみこ:割とのんびり屋&マイペース ???:割とフリーダム&神出鬼没 |
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2018 / 03 / 10 ( Sat ) 「うそっ、うみ!?」
激しい焦りが急速に全身を巡る。 夢遊を経験するのは人生で初めてだ。この点だけでも十分に動揺しているのに、行き着いた場所が場所である。 唯美子はたちまちパニックに取りつかれた。 慌てて背後を振り返った。 視覚が頼りない。コンタクトを入れていなければ眼鏡もかけていないからだ。 光明を見出そうと、とにかく必死に目を凝らした。 遠いが、疎らに光が灯っているように見える。あちら側に岸があるのは間違いない。 そうとわかれば―― 安全圏へ進もうとして、足が滑った。波にさらわれたのである。 喉から飛び出た悲鳴は、黒い海に呑みこまれた。 皮膚を揉む感触は冷酷で。まだ足が付くような浅い地点であったにも関わらず、唯美子は必要以上に手足を暴れさせてしまった。 (いや! いや、誰か助けて!) 鼻や口や耳や目が浸食されている。冷たい。怖い。 なんとか頭を水の上に出すが、視界はますます悪くなっていた。光を反射する水泡がとけてなくなる度に、果てしない黒に取り巻かれるみたいだ。 「だっ、だれか……!」 必死に出した声はか細く、あっさりと風にかき消されてしまった。 次いで、むせた。しょっぱい味が不快だ。 ――ここはどこ。 岸は近付いたのか、それとも遠ざかったのだろうか。近くに船はないのか。 ――誰か。見つけてくれる誰かは、いないの! 寒い。激しい波に翻弄される。泳ごうともがいたが、濡れた衣服が絡みついて、手足の疲労は早かった。 (落ち着いて、落ち着かなきゃ。平泳ぎってどうやるんだっけ) 波に揺らされるほどに平衡感覚が失われていった。こうなっては浮力も何の役に立ちやしない。 (やだ。おぼれるのだけは――) いやいやをするように頭を振る。水中では嗚咽すら満足にできなくて、ただただ苦しい。 行き場のない恐怖が胃の奥に固まった。 「が、は……だ……」 空気を飲み込めるタイミングが、間隔が次第に長くなっていった。 酸素が足りない。意識が途切れそうになる。 『めんどーな目に遭うぞ』 こういう時に、どうしてか頭に浮かぶのはあの子供の警告だった。 (面倒どころじゃないよっ……!」 肺が痛い。耳も目も。 二十代で死にゆく自分を、かわいそうに思う余裕はなかった。走馬灯を見る時間も―― ――突如、腹部と膝周りが圧迫された。 ごぼぼ、と吐かされた息が泡になる。 瞑っていた目を開けても、暗くて何も見えない。 巻き付いた何かが、唯美子の体を運ぼうとしているらしかった。手探りでそれに触れてみる。 滑らかな触り心地ながら、微かにでこぼことした表面。 (うろこ……へび? 蛇はちょっと、もうしわけないけどおことわりしたいな……) 南米のアナコンダならいざ知らず、日本の海にこうまで太い蛇がいるはずがなかった。きっと錯乱している。錯乱ついでに、抗う力が沸かずにぐったりとされるがままになった。 じきに、水の呪縛から解き放たれた。 気が付けば仰向けに倒れていた。背に当たる大地の確固たる手ごたえが、いまだかつてないほどに愛しい。 砂を手で握りしめながら泣き笑いした。この瞬間に我が身に広がった安心感を、今後も忘れることはないだろう。 やがて、はっきりしない視界の中に何者かの輪郭が浮かび上がる。肩幅の広さからして成人男性――浜へいともたやすく唯美子を引き上げてくれたのだ、男性の腕力でこそ可能といえよう。 腕力――お腹と膝を抱いていたあれは、人の腕だったのだ。そう、無理やり自分に言い聞かせた。 |
1-1. d
2018 / 03 / 07 ( Wed ) (さすがまきちゃん)
真希は男性陣と自然な会話を続け、間が開けば誰かに話を振っていた。残る二人の女性にも自己アピールする機会を差し挟んだり、空いたグラスにビールをテキパキと注いでいくなど、気配りにも余念がない。 媚びた印象がしないのが、すごい。 これを「出しゃばってる」と評する女子もいるだろうけれど、唯美子には感心しかなかった。 ちなみに会話の内容はというと、男性側が自身の趣味を語り終えたところだった。 「きゃー! 笛吹《うすい》さんってサーフィンやってるんですか? 今日見せてくれればよかったのにぃ」 眼鏡をかけた同期の山本女史がやや大げさにリアクションをした。普段よりも、頑張って明るく話しているのがわかる。 「夏は日中混んでて思うように楽しめないかな。だから僕は最近、ナイトサーフィンにはまってるんだ」 男性陣の中で抜きんでて顔立ちが整っている二十代後半の彼は、名を笛吹秀明という。鋭そうなタイプのイケメンだが、笑うと目元が柔らかくなって、こちらの好感を誘う。 雑誌のモデルが務まりそうなスラッとした長身、均整のとれた体格。スポーツで汗を流している姿がよく似合う彼は、一方で社内でも周囲の信頼が厚く、仕事ができる男として知られている。 どうやら真希は彼を狙っているらしかった。 (美男美女で、お似合いだよね) のんびりと缶ビールを啜りながら、唯美子は蚊帳の外から見守る。もともと奇数の集まりで自分の居場所はないし、真希のついでに来ただけだ。引き立て役として連れてこられたのだと指摘されようと、これといった反論はない。 「夜のサーフィン!? うそー、超ステキ! 見にきちゃだめですか?」 「どうかな。今夜は曇りそうだから、難しいね。ここの浜辺は夜は灯りが少なくて、月光に頼らないといけないんだ」 笛吹は嫌味のないジェスチャーを添えてしゃべった。そこに、黒髪をロングボブにした田嶋女史がうっとりと言う。 「月明かりのサーファー、いいですねえ」 「ありがとう。やってみるかい」 「初めてが夜って危なくないですか? 私、そんなに運動神経よくないですよぉ……でも先輩が教えてくださるなら安心かな」 田嶋女史が上目づかいに言葉を紡ぐ。この流れで二人は約束を取り付けるかのように思えた、が。 「笛吹さんって現在フリーなんですよね。めちゃくちゃモテそうなのに、信じられないわ。あ、ビールもっとどうぞ」 横から真希がさりげなく割り込んだ。笛吹の腕にそっと触れるなど、ボディタッチも抜かりない。 ありがとう、と彼は満杯になったビールを嬉しそうに受け取る。 「買いかぶりだよ。僕はこれでも女性にはうるさいんだ。深入りすれば、いつも相手の方から逃げちゃうんだよね」 「お前そういや誰とも長続きしないよな」 笛吹の隣の男性が肘でつついた。正直、名前はおぼえていない。 「そうなんですか? じゃあ試しに、理想のタイプがどんなか、教えてくださいよ」 「大して面白い答えは持ってないんだけどね」 「そんなこと言わずに、お願い! 条件がものすごく多いんですか? それともニッチな……ハーモニカが吹けるとか、スパイスの香りがするとか?」 「あははは! 八乙女さんこそ、発想が面白いね」 こんな風に、男性の羨望の眼差しを集めるイケメンと女性の嫉妬の視線を集める美女の言葉のキャッチボールはしばらく続いた。 いつしか会話に飽きていた唯美子は、先ほどの子供のことを思い返したりと思考を別の場所へ浮遊させた。時折、ふと笛吹と目が合った気もしたが、適当に微笑を返して、気に留めなかった。 (月か……街が近いし、見えないかな?) 後でおぼえていたら民宿の窓から探してみよう、とこっそり思うのだった。 満月を見上げていた。 予報通りに、夜空は曇っている。昼間よりも風が出ているのか、雲は速やかに形を変え続けていた。 月が幾度となく見え隠れした。その都度、表情を変えたようである。とてもではないが、街の灯りとは比べるべくもなく、心を惹き付けるものがある。 冷たい感触が太ももを撫でる。 首を下に動かし、深い闇を見つめた。その濃さは重い質感を伴っているようで、水面に踊る月光とはあまりに対照的だ。 (あ、パジャマ濡れちゃう……) 潮水が勢いを増して戻ってきた。膝丈のボトムスの柔らかい布が水を吸って、肌にくっつく。 それから意識が明晰になり、ここが海の中だと気付くまでに、数秒かかった。 ――海。 |
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2018 / 03 / 04 ( Sun ) 「知ってるっつーか、まあ、うん。仲良くはなかったけど。いちおう、報せを受けたから」
少年は頬をかいてぶっきらぼうに答えた。 (そっか、ひよりおばあちゃんのお友達だったのかな) 祖母は県内に、それも車で三十分という、頻繁に会いに行ける距離に住んでいた。週に何回か会っていたが、この子が話題に挙がったことはなかった。祖母はあまり写真を飾るような人ではなかったし、日記の類も目にしたことがない。二人に縁があったかどうかなど、どちらとも判断がつかない。しかしそうであれば彼が唯美子を知っているのもうなずける。 (おばあちゃん……教えてくれればいいのに) どんなに仲が良かったつもりでも、誰かが持つすべての顔を知ることはできないのかもしれない。もっと話せばよかった、もっと会いに行けばよかった。こみ上げる後悔に、ぐらりと視界が歪んだ。 「だいじょうぶか、ゆみ」 ぺたり。今度は頬に小さな手の感触がした。柔らかくて、ほんのりと温かい。 「うん、気遣いありがとう」 「ちげーよ。そういう話じゃない」 否定する声は険しい。びっくりして少年を見下ろす。 赤い舌が一瞬、歯の間からちろりと出入りした。 ――まただ。また刹那の間に、少年の両目に黄色い環《わ》が浮かんだように見えた。 「いいか、ゆみ。ひよりはおまえをまもるための『不可視の術』をかけてたんだ。いわゆる、まじないってやつ。けど術者が死んだ時から、効力が徐々に弱まってる」 突拍子のない話に、呆気に取られた。「術」や「呪い」と言われても思い当たる節がない。 子供のごっこ遊びかと思って笑い飛ばそうにも、そんな雰囲気ではなかった。少年は難しい単語をさも当然のように扱ったし、表情や声音には大人びた深刻さがある。 問い質すしかなかった。 「なに、言ってるの」 「要するにだな。これからおまえ、何かとめんどーな目に遭うぞって話」 「面倒な目……?」 どういう意味、と訊き返そうとしたその時。浜から「おーい」と呼ばわる者がいた。見れば、社の同僚たちが浅瀬から引き揚げている。 ふいに頬に触れていたぬくもりが消えた。 「なあ、ゆみ。みず恐怖症はもう克服できたか」 浜辺の喧噪が一瞬だけ耳朶から遠ざかり、少年の声だけがやけに大きくきこえた。そしてやはり「ゆみ」の発音が独特だ。 ――きみはそんなことまで知ってるの。 口を開きかけて横を振り向いたら、そこには誰も居なかった。浴衣姿の男の子も、異様に大きいトンボも。 人込みの中に視線を走らせる。ビーチチェアの下も思わず探った。 まさか暑さにやられて幻覚を――否、妄想の産物にしてはディテールが凝りすぎていた。自分にはそこまでの想像力も独創性もない。 「今の子、知り合い?」 水着姿で歩み寄ってきた真希の問いかけで、幻ではなかったと確信する。友人にも少年の姿が見えていたのだ。砂に目を凝らしてみれば、確かに子供サイズの下駄の跡があった。 「ううん」 「えー。迷子に絡まれてたのぉ」 「迷子じゃなかったけど……なんていうか、よくわかんない子だったよ」 祖母の友達だったという可能性を話そうかどうか迷ったが、結局どう説明しても謎が増えるばかりな気がして、断念した。 「そう? みんなが、そろそろバーベキューの準備しようってさ。行こうよ」 「わかった」 謎の子供の件をひとまず意識の隅に追いやって、唯美子はチェアから立ち上がった。 * 女性四人、男性三人という組み合わせで食卓を囲んでいた。女性陣は全員が事務員、年齢も二十代前半、とほとんどとスペックが似通っている。 こう表現してしまえば野暮だが、顔のレベルは(唯美子含め)およそ平凡。唯一、都会暮らしが長かった八乙女《やおとめ》真希が例外的に垢ぬけている印象だ。 ポニーテールを下ろして化粧を直した真希は、昼間の彼女以上に、華やかな空気をまとっている。 |
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2018 / 03 / 02 ( Fri ) ぺたり。 「え、なに!?」 突然触れたぬくみに飛び起きる。おそるおそる、デニムショーツから覗く膝に触れているものに焦点を定めた。 小さな手、だった。 「みぃつけた」 蛙柄の青い浴衣を着た溌溂《はつらつ》そうな子供が、死角からひょっこりと顔を出してきた。 七か八歳くらいの、大きな目と小麦色の肌が特徴的な、東洋系の顔立ちをした男の子だ。子供にしては彫りが深く、どこか東南アジアっぽさを感じる。 首元までの長さのボサボサの黒髪は毛先が不揃いで、左右のもみあげの部分だけがやたら長い。前髪も長いが、斜めに分け目があってなんとか目が隠れていなかった。 トンボが子供の頭にとまった。少年は眼球をぐっと上に巡らせつつ虫たちに話しかける。 「鉄紺《てつこん》、栗皮《くりかわ》。ごくろーさん」 「きみのトンボなの? 大きいね」 渋いネーミングだとこっそり思いながら、指さした。 「ん、こいつらはおいらの僕《しもべ》だよ」 少年は得意げに笑った。上列の歯に中心から少しずれた箇所に隙間があって、愛嬌を感じる。 そうなんだ、とつられて笑みを返した。 この年頃の男の子だ、虫を僕と見立てて遊ぶのもうなずける。それにしてはトンボらが本当に従順そうに翅を畳んでいるのは気になるが。 「ねえぼく、お父さんとお母さんは?」 辺りに保護者らしい人物が見当たらないので、訊ねてみた。 「お父さん、お母さんんん? んなもん、いたことねーよ。なに言ってんだ、ゆみ」 男児は不可解なものを見るように眉を捻った。ごく自然な質問だったはずなのに、彼はなぜ声を裏返すのか。 いや、そんなことよりも。独特なイントネーションだったが、もしや名を呼ばれたのではないかと耳を疑う。 「なんでわたしの名前を知ってるの」 「なんでっておまえなぁ」 我が物顔で少年はチェアの上によじ登ってきた。探るようなまなざしで、じっと唯美子の瞳を覗き込んでくる。思わず見つめ返した。 少年の双眸は濃い茶色だ。底知れぬ深みに、瞳孔が溶け込んでいるみたいな―― (茶色……だよね) 瞬きの間にちらりと薄い色が見えた気がした。瞳孔を縁取る黄色だった。見間違いだろうか、次の瞬間には元に戻っていた。 「ははーん、何十年も前の話だから忘れてんのか」 その言葉で我に返る。 少年は得心したとばかりにニタリと笑っている。 「な、なんじゅうねん? わたし、まだ二十五歳だよ。それじゃあきみは何年生きてることになるの」 「五百年とちょっとかな」 彼は一文字ずつ、大げさに唇を動かす。 少年は砂の上に跳び降りると、なぜかくるくると側転をし出した。鮮やかな青い袖がはためいている。二匹の大トンボが、所在なさげに空を舞う。 不思議な子供だ。おかしな嘘のことはともかく――話し方や間の取り方に子供離れした様子がある。気ままそうに見えて、自らの言動や挙動を意識している風だ。 最近の子は皆こうだったかな、と甥や姪を思い浮かべて比べてみたが、どこか違和感があった。 別の問いを投げかけてみる。 「ねえ、『みつけた』って言ってたよね。きみはわたしを探してたの?」 「そーだよ」 即答だ。唯美子は続く言葉につまずいた。 「……どうして」 すると少年は側転をやめた。 振り返った顔は、可愛らしい蛙柄の浴衣とちぐはぐに、ひどく真剣である。 「ひよりが死んだんだろ」 その声に悲しさはなく。静かな、労わりだけを含んでいた。 唯美子は無意識にパーカーの裾を握る。 「おばあちゃんを知ってるの……?」 正確には「知ってたの」だが、心の整理がついていないところもある。咄嗟に口から出てくるのは過去形ではなく現在進行形だった。 最初だったので二日連続更新しましたが、次からは3~4日に一度ペースになります。 よろしくお願いします(o*。_。)oペコッ |