46.c.
2015 / 07 / 25 ( Sat )
 ――それにしても、推論なのにやけに真に迫っている印象を受ける。

「あの時生き延びた従者が『事の発端は邪悪な左眼をした男だった』と言い伝え、ゲズゥの悪評は広まった。同時に、カルロンギィ渓谷の民はヤツを我が国を自由にした救い主として密かに崇めた。だが本人はこれっぽっちも気付いていない、そうだろう」

「はい。ゲズゥはカルロンギィの地に何も感じていないようでした」
「ふ、人の世というのは荒唐無稽なものだな」
 何故か彼は清々しそうに笑っていた。今の話を聞いて理不尽な世の中に失望しかけたミスリアには、そんな風に考えられるのが、羨ましいとさえ思う。

 ふいに笑い声が止んだ。それどころかそれまで饒舌だった王子が一言も発さなくなった。どうしたのかな、とミスリアは久しぶりに目を開いた。首を巡らせてみると、もう岩棚はすぐそこにあった。

「泣いているのか」
「あ……」
 前を向き直った瞬間、不思議そうに彼は呟いた。藍色の瞳の見つめる先はミスリアの頬だ。言われて初めて、自分が流している生温かい涙を意識した。

「まあいい。着いたぞ」
 王子はミスリアの腰の下に腕を回し、押し上げるようにして崖の淵に移した。硬い大地の感触に安堵した後、すぐに一ヤード(0.91メートル)に満たない幅を仰向けの四足歩行で後退る。
 次に王子も崖をよじ登って、ミスリアの隣に座り込んだ。

 眉毛についた汗や血管の浮かんだ腕などに、疲労の色が滲み出ている。大部分は自分の所為だとわかっていて、ミスリアは礼を言った。オルトファキテ王子は軽く目配せをして――

「あの男の命運を想うとやるせない気持ちになるか?」
 ――話題を戻した。
「…………」
 いきなり弾けた感情の波に飲み込まれて、口を開いても喉からは音が出せない。
「なんとかしてやりたいと強く願うか?」
「は、い」
 己でも形にできなかった心の内を、会って一時間も経たない他人に言い当てられるのは、どうしてか悔しい。

「それはお前が、ヤツに対して特別な感情を抱いているからだ」
 フードを下ろした王子の横顔は遠くを見つめていた。
 この断言する口調には、やはり、よくわからない悔しさを覚える。
「では……貴方はどうなのですか」
 一分近く黙り込んだ後、ミスリアはようやくそう訊き返せた。自分のことはおいておくとして。

「無論、私はゲズゥを愛すべき有能な人間と思っているさ。シウファーガを掌握する際に最初に共犯者となった悪友であり、最後には断りなく姿を消した薄情なヤツではあるが、そういうものだと思っている」
「共犯者?」
 彼は今、何をどう掌握したと言ったのだろう。けれども訊く機会は無かった。

「そろそろ往(ゆ)くぞ」
 そう言って突然立ち上がった王子を、数秒ほど呆然と見つめる。
「ま、待ってください。イマリナさんは――」
 未だに崖下にぶら下げられたままのもう一つの檻では、中の人物が起き上がっているのが見える。彼女を捨て置くなど考えられない。

「見張りは定期的に回ってくる。その女とゲズゥの両方を逃がすには猶予が足りない」
 王子はにべもなく答えた。「選べ」
「そんな……!」
 胸を押し潰されている想いで、ミスリアはもう一度イマリナの方を見た。穏やかな気質の年上の女性は、ミスリアの視線に気付いて微笑み返した。

 声が出せない代わりに、手先が動く。
 イマリナの扱う手話を多少なら覚えていた。何とかその意図を探る。

 ――わたしは、大丈夫。
 「行って」、と彼女は笑った。

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21:57:45 | 小説 | コメント(0) | page top↑
46.b.
2015 / 07 / 24 ( Fri )
「す、みません。重くて申し訳ありませんが、できれば落とさないで下さい」
 目を伏せ、消え入るように懇願した。すると王子は喉を鳴らして笑った。
「体重はつかないより、ついた方が良いだろう。餓えていない証拠だ」
「はあ……」

「それより、もっと全力で引っ付け。片手で登れるほど私は器用ではないぞ」
「は、はい」
 男性の身体に巻き付けた腕と足に持てる力をありったけ込めた。それに応じて自らの腰を支えていた腕が離れる。

 間もなくして、ぐらぐらと風景がぶれた。王子が鉄格子を登り始めたのである。
 眩暈がした。瞼を下ろし、もう残っていないと思っていた力を己の奥から振り絞って、更に腕に力を込める。

(この人は、怖く、ないの、かしら……)
 こういう場合は断固として下を見なければ良いらしいが、それでも手が滑ったらどうしようとか、恐ろしくならないのだろうか――。
 オルトファキテ王子から漂う砂のにおいが、今のミスリアの心を落ち着かせる唯一の要素だった。

「気を紛らわせる為に昔話でもしてやろうか」
「…………」
 気遣いは有難いのに、返事をしようにも声が出ない。察したのか、王子はひとりでに語り出した。
 ――ぎし、ぎし、と檻は音を立てて揺れる。

「私がゲズゥに初めて会ったのも、都市国家郡だった」
「……え」
 目を瞑ったまま、ミスリアは声を漏らした。
「今はシウファーガ市国という。当時は国と呼べないほど荒んだ土地だったがな」
 シウファーガという地名は聞き知っている――ゲズゥはそこで暮らしていた時期があったはずだ。

「ヤツは特に目的もなく浮遊していたように見えたが、何かから逃亡していたようでもあった」
「逃亡……」
「知っているか、聖女? 『天下の大罪人』が滅ぼしたと噂されている小国を」
 その前振りを聴いて、ミスリアの中で友人と交わした会話が呼び起こされた。
 カルロンギィを傘下に治めていた都市国家、それこそが滅ぼされた小国だったとカイルは言っていた。

「真相など、きっと呆気ないものだ。たとえばそう――」
 オルトファキテ王子は、自らの立てた推論を語った。目を閉じたままのミスリアは、なんとなく彼の一言一句を映像としてイメージする。
「あの国は名をなんと言ったかな。レグァイ、だったか。レグァイ市国は元々勢力を二分して内紛に発展しかけていた。一触即発状態で、なんとか均衡を保り続けて長く……今度こそ決定的な交渉をして平和を紡ごうと、ある時片方の勢力がもう片方に遣いを送った」

 ここに来て王子は一旦休憩を挟むことにしたらしい。おそらくは檻の上に立っているのだろう。こちらとしてはまだ目を開ける勇気も足を下ろす勇気も無いけれど。

「遣いの者は従者を一人だけ連れ、敵方の妨害を怖れて人通りの多い道を避けた。しかしそれが、ある意味ではいけなかった」
「どうなったんですか?」

「森の中で遭遇してしまったのさ。たまたまそこに居合わせた、一人の気味悪い若者に。既に神経質になっていた遣いには、そいつを自分を害する為に現れた間者と信じて疑わなかった。ゆえに、誰何もせずに襲い掛かってしまった」
「――!」
 その先はもう聞かなくてもわかった気がした。

「襲い掛かってきた敵を返り討ちにするのは生き物として正しい反応だ。ゲズゥ・スディルは何も間違った行為をしていない。しかし遣いを殺したのは果たして何者なのか、和平の可能性を潰したい誰かの仕業か、提案した方の自演か――両勢力の疑心暗鬼に拍車がかかったのは言うまでもない。結果として内紛は勃発し、跡には荒地しか残らないまでに悪化した」

 じゃらり、と鎖の目がぶつかり合う音がした。王子がまた動き出したのである。

「果たして聖女よ、これは誰の罪だ? もしもゲズゥが殺さずに相手をやり過ごしていれば何事もなく済んだ話なのか? それとも遣いの運命は元より定まっていて、他の誰かが結局殺していたか? もしもの話にそもそも意味は無いだろうが」
「…………結果だけを省みれば、摂理はきっと、レグァイの滅亡をゲズゥの咎とするでしょう」

 複雑な因果関係だったとしても、民の死が大勢の人間の業の末に起きたことだとしても、ゲズゥが罪の一端を背負わなければならないのは確実だ。

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00:27:56 | 小説 | コメント(0) | page top↑
46.a.
2015 / 07 / 23 ( Thu )
「王子はどうして此処に居るのですか」
 彼が檻の下に回って網を切り開いてくれるのを待つ間、手持無沙汰なミスリアは質問を投げかけてみた。
 正直のところ、答えてくれるとは思っていない。

「私の砂場だ。居て当然だろう」
 ミョレン王国第三王子オルトファキテ・キューナ・サスティワは、こちらを見向きもせずに答えた。檻の底から両手でぶら下がっている。左腕を治してあげられたのは、懐の中の水晶のおかげである。
「砂場?」

「なんだ、それもゲズゥに聞いてないのか」
「いいえ」
「聞きたいか?」
 王子は片手を空けて、抜き身のナイフを構えている。

「……聞かない方が良いのなら、聞きません」
 逡巡した後、ミスリアはそう答えた。鉄格子にしがみついた姿勢で、王子の一挙一動を見つめる。
「ああ。情報を知って何かしら害が及ぶのかと案じているのなら、それは問題ない」

 ――ギリッ!
 短い金切り音が響いた。反射的に目を瞑り、再び開くと網には既に裂け目ができていた。それをオルト王子はナイフの背を当てて淡々と広げている。指の開いた軍手を嵌めていなければ、手の甲を怪我していたかもしれない。

「そうですか。では聞きます」
「よかろう」
 十分に裂け目が開けたところで王子はナイフを腰の鞘に納め、再び空いた右手を差し出して来た。

 その手を見つめて、一瞬、ミスリアは本気で恐怖した。
 我が身を委ねていいのだろうか。人に関して「使い道」なんて言い回しを使う男にとって、約束を破るのは日常茶飯事では――?

(ここまで手間をかけて人を騙すなんて…………ありえない話じゃないし。わからないわ、誰か教えて)
 袖の中に潜む異形の存在を想った。もしもソレか、或いはソレに連なる人物が、ミスリアが間違った選択をしていると判断したら、妨害してくるはずだ。そう思い込めば、恐怖は薄れた。

「私の首にしがみつけ。あとできれば足も巻きつけるといい、その方が安定するだろう」
「わかりました」
 言われた通りにせんと腕を伸ばす。よく知らない人間に密着するのは気が進まない話だけれども、思い返せば、ゲズゥだって最初はただの他人だった。

 つべこべ言っていられる状況ではない。谷に落下せずに済むなら、今は何でもやるつもりでいる。
 一度深呼吸をしてから、滑り落ちるようにして檻から出た。背中辺りの布が、切れた網に引っ掛かって破ける感触があった。

「ほう」
 王子の首に腕を回したのと同時に、力強い片腕がミスリアの腰を締め付けた。
「何か?」
「予想以上に重いな」

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00:06:37 | 小説 | コメント(0) | page top↑
みんな実は
2015 / 07 / 20 ( Mon )
おぱんつネタが好きなの…?
それともオルト様が好きなの…?


なにゆえ45fの拍手数が伸び続けるのだ…w

それはさておき、下は先週私がせっせと描いてた挿絵っぽいような一枚絵的なアレです。背景が空なのは、崖と檻に挑む気力が無かったからです。線はシャーペンで、色はスマホアプリで手がけてます。

46開始はもうちょっとだけお待たせしちゃうかもしれません。今は滝神のターンなので。





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21:35:18 | | コメント(0) | page top↑
拍手コメ返信だよー
2015 / 07 / 19 ( Sun )
@45.g. はるさま

またまたコメントありがとうございます! 袖の中は窮屈そうなので多分ファーストチョイスではないんでしょうねw

おお、王子登場は予想外でしたか? これまでに散りばめられていたヒントがここにきてちょっとはまとまると思います。次話辺りに。

腕の痺れ…治ったかと思えば昨日は編み物とか工作のお手伝いとかしてて(笑)今度は掌がきつくなったりしましたね。かくなる上はスマホ使用を控えるしかw ご心配ありがとうございます。

では46でお会いしましょう★



@45 あとがき みかんさま

スーパー生殺しタイムでございました。目玉のおやj……私も途中でそう思いましたよ。

オルトさんお懐かしゅう! 12→45話と、まる33話の間を置いて再登場なんて、多分今後の物語の中でも最長記録ですよw カイルやその他の人たちもきっとかすりもしない…。

最近暑くて夜中に目が覚めます。全く夏なんて、早く終わってくれてもいいのよ…。

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23:11:56 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
45 あとがき
2015 / 07 / 18 ( Sat )
今月こそは一か月二回更新なるか!?

本日は思わぬ弊害がありまして、昨日仕事で数字のデータ入力に張り切りすぎて右の前腕がちょっとびりびり(?)してる感じがするんですよね。いつものスピードでタイピングできなかった…(ベストが英語120wpmなら今測ったら100だった)

wpm=words per minute  一分に打てる単語数ですね


どうでもいい。

では続きどうぞ!

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01:15:32 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
45.g.
2015 / 07 / 18 ( Sat )
 そう言われてミスリアは数拍の間考え込んだ。
 助けて欲しいという望みが形になる前に相手方から提案されるのは、流石に警戒してしまう。

「失礼ながら信用できません。そうして貴方は何か得することがあるとでも?」
 動揺を見せないように、努めて冷静に言い放つ。
「無論だ。私は等しく有能を愛し、無能を嫌悪する。脳ある人間ならば何者であろうと可愛がるさ」
 王子は歯切れよく宣言した。器が大きいのか小さいのかよくわからない発言である。

「交換条件は何です」
 流れに飲まれてなるものか、と声を低くする。
「察しが良くて何よりだ、聖女」
 ふっ、と笑って彼は頭を僅かに斜め横に逸らした。見下ろすような目線は相変わらずである。

「まず言っておくが、お前が先に私の条件の方を飲まねば、助けてやるのは不可能だ」
 助けてやらない、とは言わずに彼は不可能という言い回しを使った。何かが引っかかる。
「意味がわかりません」
「なに、別にややこしいことではない。要求は単純で、しかもお前にしか果たせない類のものだ」

「私にしか……?」
 そういえば妙だと思った――彼が何かを求める相手がゲズゥでなく自分であるのは。どんな事情かはわからないけれど、普通に考えて王子は無力な自分よりも確かな戦力を必要としそうだ。

 彼は鉄格子に嵌めていた踵を引き抜いて、長靴の爪先を嵌め直した。そうして前のめりになった姿勢で重心を安定させ、右手を自由にする。
 空いた手でマントを肩の後ろへと払った。そこから現れただらしなく垂れ下がった左腕を、右手で持ち上げる。
 左腕が動かせなかったのか、とミスリアは理解した。緩く包帯に巻かれた腕はよく見ると毒に侵されているかのように紫黒色に変色していて、手は赤く腫れあがっている。

「この檻の鍵は上からかかっていて、尋常でなく頑丈だ。生憎とそれをこじ開けたり壊したりするには道具が無い。が、意外と下の網は脆く、鋭利なナイフ一本で切り開ける」
 貴方は試したことがあるんですか、と訊きたいのを我慢し、ミスリアは言葉の意味を噛みしめた。
 宙ぶらりんの檻を下から切り開くには両手が使えなければ難しい。片手では落ちないようにするだけで必死だ。

「私が腕を治した直後に貴方が逃げてしまわないという、保証はありませんね」
 言ってから、疑り深くなったものだなと自覚する。
 以前の自分なら何の疑問も抱かずに首を縦に振っていたかもしれない。ゲズゥたちの影響だろうか。これを成長と呼んでいいのか、なんとも言えない気分になった。

「心配には及ばない。何故なら、私はお前個人に更なる使い道を見出しているから」
「使い道…………」
「それも、ややこしいことではない」
 藍色の瞳はミスリアから離れ、遥か下へと向かった。

「谷底だ」
 つられてミスリアも谷底を見た。一瞬、息が止まるほどには、やはり高かった。
 底そのものは靄(もや)がかかっていてよく見えない。奥にどんな景色があるのかまるでわからない。
 注視していると、段々と一つの不安が沸いた。このうすら寒い予感を言葉にするなら――

「カルロンギィの人々は夜に怯えている。その意味、聖女ならばわかるだろう」
「……予想はつきます」
 静かに答えた。
「私の目的の為にヤツの排除は必須だ。協力しろ。ここから出すついでに有益そうな情報もくれてやる」

「魔物退治を手伝えと言うんですか」
「少し違う。見様によってはヤツは人でなければ、魔でもないし、しかし両方である」
「それ、は」
 王子を振り返りながらも、いつの間にかミスリアの掌から上って袖の中に隠れている目玉に意識が行った。

「おかしな挑戦をしたらしい。魔物と同化するという、挑戦を」
 大きく目を見開いて、ミスリアはオルトファキテ王子を見やった。
 王子はその心中に何が潜んでいるのか、随分と複雑そうな表情をしていた。

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00:52:32 | 小説 | コメント(0) | page top↑
へーん! しーん! <拍手
2015 / 07 / 16 ( Thu )
@45.f. はるさま

初コメントありがとうございます♪

「いつも楽しみにしている」ほど、いただけて嬉しい言葉を私は知りません。
それにしてもみなさま、ハジメテは突っ込むために声を出す方が多いですねw 素晴らしい! どんどん突っ込まれるようなぶっ飛んだ内容を書けってことですね!?(違う


>もっと他の場所はなかったのか!
見事な着眼点でございます。

しかしヤツのことだから、胸元だろうがスカートの中だろうが大して違いは無いのかもしれませんw
あ、胸元は水晶が入ってるから近付けないという制限が。多分そこと距離を挟もうとすると「下」にしか逃げ場が無いと言う…。

決してミスリアのおぱんつ(かぼちゃ型?)に思う所があったわけではなく…… ぶくくく


それでは45も残すところあと1~2記事かなってところですが、お付き合いいただけると幸いです!

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21:53:51 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
45.f.
2015 / 07 / 16 ( Thu )
「上の集会所では、大勢の人間が集まっている。『呪いの眼』の持ち主を祭り上げる為にな」
「祭り、あげる……どうしてそんなことを」
 思わず返事をしてから気付いた。上から降りかかる男性の声は、南の共通語を使用している。共通語、しかも南のを話せる者はこの周辺ではかなり珍しいのではないか?

「利用したいからに決まっている」
「!?」
 男性の応答とは無関係に、ミスリアは驚愕して口元を手で覆った。スカートの盛り上がりがもぞもぞと動いたからである。狭い檻の中で後退ると、ころんと何かが衣の下から転がり出た。

 瘴気を微かに立ち昇らせる白い球体。
 小型の魔物――最初に浮かんだのはその可能性だった。が、この檻の中は眩い陽光に満たされている。魔性の物が実体を保てる環境ではない。

 ミスリアが息を潜めて見つめる中、球体は震えた。たとえるならば、輪郭を変えて「足」を作ったようだった。その足で網を掴み、全体の向きを変えた。
 前後反転したそれには見覚えがあった。

(目玉?)
 白い色の中には細かい赤筋が見て取れる。同じ白でも外周より澄んだ白が中心で円を成しており、そこに散らばる金色の斑点、そして深い切り込みのようにも見える、縦長の黒い瞳孔。

 何故目玉が自力で動き回っているのか、何故形状変化ができるのか、疑問は多い。けれども何よりも注目したいのは、眼球に見覚えがある点に他ならなかった。たった今話題に挙がった「呪いの眼」である。

 恐ろしさよりも好奇心が勝る。ミスリアはゆっくりと手を伸ばした。
 そんな時、檻の上の人物がまた話しかけてきた。

「お前の連れの中にもう一人、呪いの眼の持ち主が居たとはな。あの銀髪は見たところ強(したた)かそうだ。人違いであっても、うまく祭り上げられるやもしれん」
 頭上の声が移動し始めている。
 深く考えずにミスリアは眼球を掌に包んで背の後ろに隠した。肌に伝わる感触はねっとりとしていて、意外に温かい。不思議と気持ち悪いとは感じなかった。

 謎の人物は鉄格子の間に長靴の踵を嵌め込んで足場とし、降下してくる。右手で鉄格子を掴みながら、左腕は何故かだらしなく垂れている。
 彼の体重が移動している所為で檻が大きく揺れ出した。明らかに男性はミスリアよりも重い。

 こちらも空いた手で鉄格子を掴んだ。そうでなければ檻の中を投げ飛ばされたり振り回されそうである。

「人違いって何のことですか」
「なんだ。ゲズゥに聞いていないのか」
 右手の中で目玉がぴくりと動いた。もしかしたら見えなくても会話が聴こえているのかもしれない。理屈はきっと、考えてもわからない。

(それより今の感じって……)
 男性の、何気なくゲズゥの名を呼ぶ悠然さには覚えがあった。今となっては遠い昔みたく感じられる、邂逅の日を思い出す。
 降りてきた男性は砂色のフードとマントに身を包み、鼻から首までもを同色の布で覆っていた。窺えるのは褐色肌と、刺すような藍色の双眸――。

「……オルトファキテ殿下?」
 囁きで問いかける。男性の目元の緩みからして、笑ったようだった。
「此処ではその名に意味など無い。長ったらしいだろう、端折って呼べ」
「は、はあ。では、王子」

 ミスリアにとっては精一杯の譲歩である。まさかゲズゥみたいに「オルト」と呼ぶには恐れ多いというか、単に恐ろしかった。得体の知れない人間との、得体の知れない場所での再会を喜ぶ気にはなれない。

 オルトファキテ王子は顔の布に指を引っ掛け、そのまま引き下ろした。以前会った時と何も変わらない顔が露になる。
 彼は一つ不敵に笑った。

「ここから出してやろうか」

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06:40:13 | 小説 | コメント(0) | page top↑
45.e.
2015 / 07 / 14 ( Tue )
_______

 聖女ミスリア・ノイラートは狭い場所で目を覚ました。
 むくりと上体を起こして、寝ぼけ眼を上下左右に向ける。

(六角柱の……檻?)
 細い鉄格子と、六角形の天井がぼやけた視界の中で色付いた。
 さて床はどうなっているかなと思って視線を落とすと――
「ひぃっ!?」
 下は網だった。問題はその点ではなく、網目の向こうに見えた景色だ。深い谷を見下ろす形になっている。

 ――とてつもなく、高い。
 いつの間にやら網に立てていた両手の爪が、ガチガチと音を立てて震える。寝ぼけていた頭など一気に冴え渡った。

(なんで、何でこんな所に)
 檻の中には自分しか居なかった。他の皆を捜し求めて視線を彷徨わせ、そうして少し離れた場所にも檻を見つける。
「イマリナさん!」
 力なく項垂れている女性に幾度か呼びかけたがまるで起きる気配が無い。

 ごうごうと吹き抜ける風に撫でられて、ミスリアやイマリナが納められている檻が揺れる。崖の縁(ふち)からぶら下げられているようだった。一体誰が、何の為に。

(ゲズゥやリーデンさんは……)
 おぼろげな記憶の中では二人の護衛は力づくで昏倒させられていた。駆け付けようとしたところで記憶は途切れている。
(どこ――?)
 思考がまとまらない。膝を抱え込んで、押し寄せる恐怖の波に耐えた。しかし一分としない内に耐え切れなくなり、叫んだ。仲間たちの名前を順番に呼ばわる。次第に誰でもいいからと返事が欲しくなり、切羽詰まった悲鳴をあげた。

「誰か! 誰かいませんか!?」
 声は反響することなく、谷に飲み込まれる。その時になって首周りをまさぐったのは、無意識からだった。

 ――無い。またアミュレットを失くした。
 ならば更に希少価値のあるアレはどうなったのか。
 胸を押さえつけ、内ポケットに収容されている小物を探す。すぐに硬い感触が指に伝わった。

(よかった、水晶だけでも無事で)
 聖獣の鱗であったこれには、持つ者への強い守護を期待できる。手元にあるだけで安心した。それでも、なお不安要素が多すぎるが。
 もう一度大声を出そうと、息を大きく肺に吸い込んだ瞬間――

「叫んでも無駄だ。仲間にも、捕えた者らにも、届きはしない」

 ――ガシャン!
 大きな音と共に、檻が激しく揺れた。質量の多い何かが上に飛び乗ったと受け取れる。人語を発したからには、きっと人間だ。

(檻ごと落ちる!?)
 全身を硬直させ、ミスリアは知らず青ざめた。胃の中身が渦巻いている。
 こんな時になんだが、自らのスカートの裾が一箇所、不自然に盛り上がっているのが目に入った。まるで丸い小石が中に隠れているかのようである。

「いい格好だな。聖女」

 ――誰?
 吐き気を堪えつつ、真上からかけられた挨拶を不審に思った。聖女の特徴的な白装束ではなく一般的な部屋着しか着ていない上、アミュレットも身に着けていない。教団の象徴を象ったアミュレットを盗った当人でなければ、ミスリアの身分を知っているはずが無いのだ。

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06:35:12 | 小説 | コメント(0) | page top↑
45.d.
2015 / 07 / 09 ( Thu )
 ――あっという間に景色が流れる。
 気が付けば縄を外され、足の下には大地があった。黄緑色の低い草が疎らに群生しているが、察するにこの土地はあまり潤ってないようだ。

 下半身の血行は流石にまだ回復しない。立つのが困難なリーデンを、左右から他人の腕が支えたけれども、礼を言う気は起きない。そんなことよりも周囲をじっくり見渡すことにした。

(へえ。居住区があれ以上にもっと高いとこにあったとはね)
 岩陰からにょきにょきと生えるキノコ、と言えば最もイメージが似ている。木板で組み立てられた、やぐらにも似た印象を受ける家がそこかしこに建てられている。木材は別の場所から運んできたのだろうか?

 やがてリーデンは、二十軒ほどの家をつり橋で繋いで中心を広場にしたような、不安定な場所に連れられた。中央近くの座布団を勧められ、そこにありがたく胡坐をかいた。砂を詰めたみたいなずっしりとした座布団である。

 囲う人だかりから、女が歩み出た。白髪の割合が高い髪を後ろ首で団子にまとめ、他の民と同様に口や鼻を布で覆っている。
 光の加減によっては緋色と見間違いそうな、濃い茶の瞳と艶やかな睫毛が美しい。女は顔の布を顎下まで引き下ろして一礼した。改めて見ると、五十代に突入していそうな者だ。それなのに衰えをまるで感じさせない佇まいと顔つきには素直に感心した。

 女は片手を挙げてざわめく民を静まらせた。真っ直ぐにこちらを見下ろしたかと思えば、目前まで来て片膝をついた。

「失礼致しました、ヴゥラフ」
「へえ、君は共通語が話せるんだね」
 条件反射で、リーデンは非の打ち所のない笑顔を返した。
「はい。これまでのご無礼をどうかお許し下さい」
「じゃあ訊くけどさ、あんなとこで僕らをぶら下げたのは何で?」

「余所者は不運を運んでくると言い伝えられています。都市部に招き入れる前に、風の女神サルサラナに清めていただく為、一時間から八時間ほど谷風に晒すのです。かける時間はお相手の態度次第になります」
 女は流暢な北の共通語で惜しみなく答えた。

「それは旧信仰?」
「いいえ。我が国は教団のみ教え通りに聖獣を崇め奉っております。昔ながらのいくつかの習慣が、生活の中に残っているだけなのです」
「ふうん」
「それから、女性は逆さに吊られないのでご安心を」
「あっそ。あの子たちが無事ならそれでいいよ。後で会わせてね」
 内心では相当にほっとしていたが、周りに悟らせない程度に軽く応じた。

「勿論でございます。お慈悲のほど、ありがとうございます。ヴゥラフ」
 女は胸に手を当てて頭を深く下げる礼をした。
「さっきから気になってたけど、その呼び方なんなの」
「ヴゥラフは、ヴゥラフでございます。我らを圧した者たちから解放して下さった主、ゆえに解放主(ヴゥラフ)です」

「解放主、ね。どう考えてもそれって僕のことじゃなくて……ん? 解放? そこんとこもっと詳しく」
「あなたさまはかつてこの都市に圧政を敷いた憎き敵を滅ぼしたお方なのでしょう? 我々カルロンギィ渓谷の民は解放主にお目にかかったことがありませんが、白と金の、龍のような鋭い眼を持った、若い男性だと聞き及んでいます」

「ああなるほど。そういうこと」
 そこまで聴いてリーデンは合点が行った。なんてことはない、別々だと思っていた噂が実は同じ出来事を指していたというわけだ。

「それはわかったけど、今になって『解放主』相手にこんなに騒ぎ立ててるのは何故?」
「あなたさまのお力を再びお借りしたいのです。新たなる敵からこの地を解放してくださいませ」
「いわゆるお悩み相談ね」
 またまたリーデンは納得した。これで事態の把握はほぼできた――彼らは過去に自分たちを救ってくれたらしい人物が再び苦難の時期に姿を現したことを、偶然ではなく運命の導きだと解釈したのだ。

(本人ですら忘れていた縁か。都市国家カルロンギィ、俄然興味が湧いてきたよ)
 見知らぬ土地で生き延びる上で、恩を売る機会ほど都合の良いものはない。とんでもない面倒ごとが待ち受けていたとしても、ここは乗るのが最善策とする。

「現時点で僕に何ができるか、一つとして保証はしない。でも相談には乗ってあげるから、遠慮なく話してみなよ」
 リーデンは頬杖ついて微笑んだ。

「ありがとうございます、解放主」
 女が涙ながらに一層礼を深くする。その背後では同じように跪く人間や歓声をあげる人間と、とにかく全員が心から嬉しそうにしている。
 こちらにしてみれば愉快な光景だった。



生殺しはまだ続きます、サーセンw

同じ恩を売る目的でも、ここでゲズゥだったら人助け「めんどくせー」に尽きるけど、リーデンは「めんどくさいようなおもしろいような」となるのが兄弟の性格の違いってとこですかね。

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23:13:14 | 小説 | コメント(0) | page top↑
45.c.
2015 / 07 / 07 ( Tue )
 突発的な声に男たちはぎょっとなり、警戒気味にこちらに視線を走らせた。が、そんなことは丸きり無視して記憶の中を漁る。
 一体どの時点で眼球は失われたのか。遠くからミスリア一行を見つけて声をかけた時はまだ距離があったし、ハッキリ確認した気がしない。出会い頭に相手の両目が揃っているのかどうかをわざわざ確認する方が稀だ。

(兄さん前髪また伸びてるし……そりゃあ遠くからじゃわかんないのも当然だよね)
 たった一つの異変を除いて、外傷の痕らしき痕が無い。血などが乾いた痕跡ですら見当たらない。まるで眼球だけをどこかにポロッと落としてしまったかのようだ。

(まさか目玉が自分で足を生やして逃げるわけでもなし――いや、そうとも言い切れないか)
 呪いの眼と呼ばれるモノは、魔物を人体に取り込もうとした実験の成れの果てである。リーデンがその事実を知ったのは比較的最近だが、知っている以上、あらゆる不条理な可能性をも考慮すべきである。魔物とは元よりそういう存在だ。

 こうして考え込んでいる間に男たちが隣の空いた鎖を取った。ゲズゥをも逆さ吊りにする気だ。妨害をしても無駄だと判断し、ガチャリと嵌められていく足枷をリーデンはぼんやりと見つめた。

 そこで一つの発見をする。
 近くにあると思っていた兄の「気配」は依然動かぬままだ。即ち、近くにあるらしいが、少なくとも半径15ヤード(約13.7メートル)以内に居ないように感じるのだ。それだと目の前の男は、この矛盾はどうしたものか。

(僕らを繋ぐ見えない「糸」の支点が左眼だとするなら、その繋がりが眼と一緒になくなるのはわかる。でも――)
 繋がりは活きている。ただその端点が目の前にぶら下がる男に無いだけだ。これは本気で、眼が独立した状態で活動していると考えねばなるまい、とリーデンは珍しくげんなりしていた。

「こっちこそが――――だ!」
 手ぶらになった男たちの注意が再度こちらに向いた。
「そうだな。白いな。お前の言う通り、コイツが――――かもしれない」
 男たちは一つ、リーデンに聴き取れない単語を使った。

「は? 何言ってんの君たち」
 北の共通語で話しかけてみたが、奴らは興奮していて聞く耳持たない。あろうことか岩壁を伝って近付いてきている。
「ヴゥラフよ、歓迎する」
「失礼をした、ヴゥラフよ」
 相変わらず意味は知れないが、何度目かで発音を聴き取ることができた。

「ちょっと、どういうこと? ヴゥラフ? って何それ」
 と問いかけても返事が無い。
 男たちはせっせとリーデンの足枷を外してくれている。次いで肩を掴んだり腰に縄を巻いたりと、少なくとも枷を外してそのまま谷底に落とすつもりは無いようだ。

 自由になれることに対する期待が生まれたと同時に一つの焦りが浮かんだ。これでは多分、兄と話す機会が失われる。
 そうとわかれば即決した。唯一届きそうな右脚を伸ばす。

「起っきろォ!」
 距離や体勢の関係で、蹴りは腕をかする程度の衝撃しか与えられなかった。それでも逆さの兄をぐるぐると横に回転させるだけの勢いはあった。これで意識が戻らなかったら唾を吐きかけるくらいしかもう策が――。
 幸い、数秒後には瞼が震えた。ちょうどその頃に回転も収まった。

「に、い、さ、ん? 君はー、僕にー、色々と説明しなきゃなんないコトがー、あるんじゃないかなぁ?」
 黒い右目の焦点が合うより先に、リーデンは毒気を吐きつけた。
「…………同意だが、後に回すしか無さそうだな」
 状況をざっと見回したゲズゥがやはりげんなりとした様子で応じた。こちらのやり取りなどお構いなしに捕獲者たちがリーデンを抱えて上へ上へと引き上げている。

「しょうがない! 今の表情(カオ)が面白かったから、それに免じて許してあげよう!」
 下方に遠ざかる兄に向けて、ほんのちょっぴり上機嫌になったリーデンが叫びかけた。

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04:22:16 | 小説 | コメント(0) | page top↑
おへんじおへんじ
2015 / 07 / 07 ( Tue )
@45.b. みかんさま

あそこの「ハァ?!」をぜひ声に出して読み上げてくださいませw




@44.d., g., j. ミスリア親衛隊さま

>水中で電波受信
そしてそのまま天に召されかねない…が、背に腹は代えられない! 頑張れ世界の聖人聖女たち!

>相性
一応本体は人間(笑)として聖気は普段受け付けられるんですが、聖獣から採れる原料の水晶などとは反発しあう感じです。微妙に人間に定着しちゃった所為か、その辺の魔物みたいに浄化されるわけでもないみたいですね。難儀な子です。

>ゲズゥさんに何かを恥じる繊細さがあったのに吃驚しました。
恥じる繊細さw あのデカブツにはいじらしい面もあった…のか…… …? まあ、多分大部分は「自分でも説明できないからしたくない」のでしょうけどw 殊勝に育ってきて可愛いやつですよ。

>太く短くの傾向
出世したら寿命が縮むとなると、上へ行きたがる人が少なくて、ある意味では野望を叶えるにはもってこいですね…。殉教覚悟で就任したクレイジーな同僚ばかりにならないと良いですね(

> 世 の 中 や っ ぱ り 顔 か!
真……理………!?



いやはや、いつもながら感想ありがとうございました。突っ込みきれるか心配でした。
まったく、顔の良い若者とは困った生き物です(?)

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02:24:04 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
アクリルたわし
2015 / 07 / 06 ( Mon )



本編が非常にワロスな状態なまま、手芸とかやってたのは私です。
カフェキッチンさんの糸がやっと手元に届いたので、早速編んでみました。

初めてのたわしにしては上出来ってところかしら。
右のはちょっと尺が余って、ゆるゆるになってしまいました。既に使ってみたあとなので濡れております(色が濃いのはそのため)

使い心地としては、まだ何とも言えず。な、るほど…? きれいになったといえばなったけど、臭い残りそうな気が…?

巻く? スタイルのたわしは写真で見てて興味があったので最初に手を付けたんですが、作り終わってから素直に円状に編めばよかったのでは、と考え。その結果色々検索してみたところ、ポップコーンスティッチを使って左のヤツが出来上がりました。とりあえず、かわいい。でも実用性については未知数ww

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12:46:58 | 余談 | コメント(0) | page top↑
45.b.
2015 / 07 / 03 ( Fri )
(こいつはひどいや)
 ゆっくり元の体勢に戻った。岩棚と言っても真下には足場が無いし、反対側の側面はここからの距離が目測できないほどに遠い。仮に鎖から自由になれたとしても、逃亡は難しい。

(そもそも、どうやってこんな所に運ばれたんだろうね)
 一応、この場にはリーデン一人しか居ない。左右を見やると空いた足枷が何個かぶら下がっている。人を捕え置く為の場所なのは間違いないが、まだわからないことだらけだ。
 これは次なる展開を大人しく待つしかないのだろうか。

 どれくらい放置されてたのかによるが、当分はこの体勢でも生きていられると推測する。似たような拷問方法を見たことがあるため、若く健康な人間であれば最も危惧すべき問題が脱水症状であることはわかっていた。とはいえ、それはあくまで生死のみの問題であって、どこかしら血栓ができたり、心臓が過労に蝕まれたりしないとは限らない。

 などと考えていたら、上方から人の気配がした。瞬く間に、何か大きな荷物を二人がかりで抱えた男たちの姿が現れる。二人とも腰に縄を巻いて降りてきているらしい。服装は麻布でできた砂色の簡素なもので、顔には鼻と口を覆う布を巻いている。

(なんじゃこりゃ。ぶら下がる系文化?)
 かろうじて考え付くのは、横取り対策だ。捕えた獲物を屋外で処理・保管している間、他の野性動物に盗られない為の措置とも考えられる。しかしそうだとするなら、自分はおそらく食用として保管されていることを意味する。

 いかに広い大陸でも、食人の習慣を良しとする国は存在しなかったはずだ。では他の用途があると仮定して色々可能性を探るも、思いつかない。未だに何もかもが謎だ。

 男たちは巧みに岩壁に沿って降下し、手荷物を抱え直した。確かめるまでもなくそれもやはり人間であろう。そいつも今からリーデンと同じ目に遭わされるのだ。
 別段、誰何や抗議の声を上げようとも思わず、リーデンは無言でその作業を眺めた。

 すると男の一人が視線に気付いた。布越しに何かをぼそぼそと相方に呟いている。何故か二人は色めき立っていた。
 四、五回の言葉の応酬を経て、ようやく取っ掛かりを見つけた。舌を巻くなど訛りがが濃いが、単語は北の共通語と、文法はシャスヴォルの言語と似ている部分がある。「白い」「トカゲ」「目」と言ったのはわかった。

「しかし、こっちの黒い男は聞いた通りの見た目だったのに目が違ったぞ」
 脳内翻訳の的確さはともかく、リーデンにはそう言ったように聴こえた。
「銀髪の男なんて聞いてないな。だが白い、トカゲの目だ」
「さっきは緑だったぞ!」
「見間違いだ。今は白い!」

 ――この男たちはもしや呪いの眼を探しているとでも言うのか。
 どうして、という疑問も沸いたが、それよりも少し前の発言の方が気になった。

(目が違った?)
 奴らが抱えている荷物の正体はもうわかっていた。うつ伏せにされていてもわかるあの濃い肌色、引き締まった筋肉、硬そうな漆黒の髪、やたらと大きな図体――それらが揃っていればもう兄に相違ない。しかしどうやらそちらはコンタクトを落としていなかったのか、目の色が正しく認識されていないようだ。

「ならこっちも見間違いだったのか?」
「いや? ほら、やっぱり。この黒い方の男は、左目が無い」
 ゲズゥをうつ伏せから転がして、得意げに指差す男。

「ハァ?!」
 リーデンは素っ頓狂な声をあげた。
 何故なら指差された兄の左の眼窩は――本当に眼球がお留守の、ただの空洞となっていたからだ。

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23:57:42 | 小説 | コメント(0) | page top↑
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