6. b.
2026 / 02 / 13 ( Fri )
閲覧注意だよ



 リクターは机の上の小型ラジオを付けに行っていた。控えめな音量でAM放送のニュースチャンネルをかけている。停電が起きた場合や天候が悪化しそうな場合に情報が入るように。
 マスターベッドルームの中はリビングに比べていくらか肌寒い。そういえば一日もの間、色違いで揃いのセーターを着ていた事実を振り返って、不思議な気分になった。
 こういう時に服を自ら脱ぐのが正解なのかわからない。ベッドに腰をかけたまま、シェリーはぼんやりと天井を仰いだ。

(明るい)
 天井の照明は扇風機と合体しているタイプだ。リビングのライトは点けたままで暗くできるような機能があったのに対し、こちらはオンオフスイッチのみらしい。スイッチを切ればナイトライトも無い完全な暗闇になってしまうのは昨夜ここで寝た時に知った。
(なんにも見えないのもそれはそれで困るのかな)
 考えてもしょうがないことを、つらつらと思い浮かべる。そのうちに視界の端からペットボトルを渡された。

「ありがと」
 ちょうど喉が乾いていたので助かった。キャップを外し、三口ほど飲み込んだ。濾過水が異様に美味しい。キャップを戻したボトルを床にそっと下ろすと、なんとなく、身体が窮屈な感じがした。
 ワインの効果がまだ沁み込んだ頭で、どうしようかと思考し――右手をシャツの下から挿し込んで背に回し、ブラジャーのホックを外そうとする。幾度となく繰り返してきた動作なのに、この時に限ってうまくいかない。

 カチッ。
 セーターの上から手伝ってくれた手があって、シェリーは心中で感嘆した。
(え、すごい)
 服の上から女性の下着を脱がせる技術は都市伝説だと思っていた。高校生男子の見栄から成る法螺話くらいに思っていたのに、実際に自分がやられる日が来ようとは。

 ともかくして、数秒前よりも楽に息ができるようになった。Cカップのブラがおそらく合っていないのも一因だが、それを認めるのが癪で、今日までDサイズを買えずにいる。
 小さくため息をついた。
 これで意識するなという方が無理な話だった。後ろから抱き込まれて、腹部を撫でられる。

(大きくて、あったかい手……)
 この前も決して乱暴に扱われたわけではないのに、今夜はなんだか手付きがとても優しい。
 肌の上をすべるようにして、それぞれが別の方向に進んだ。片方の手は上に、緩められたブラの下に潜って乳房を包み込み、もう片方の手は下へ――

「やだ、そこは。汚い、よっ……!」
 薬指で器用にパンツのゴムを押し上げて、中指と人差し指を潜り込ませている。敏感なところが探り当てられた。
 同時に胸を揉みしだかれている。
「けど気持ちいいんだろ」
 人差し指は固くなってきた豆を擦り、中指は内へと押し進んでいく。次第に濡れた音がする。
 恥ずかしい。身を捩(よ)じる。やめて――止めてほしいのに、でも止めてほしくなくて、嬌声が漏れた。

 真冬なのを忘れてしまうくらい、体温が上昇していた。
 唐突に指が引き抜かれた。
 ――焦らすの。
 肩から振り返り、恨めし気に睨み上げた。対するリクターは笑ったようだった。

「気ぃ緩めてけよ」
「そんなこと言われても」
 どうすればいいのかわからない。しかし男は特に助け舟を出すわけでもなく、自身の衣服を脱ぎ捨てただけだった。セーターとシャツが首と腕を通り、下に着ていたらしい灰色のタンクトップが残る。
 この際に乱れた髪も、露わになった鎖骨と肩口のラインも、「良い」と思った。そしてすぐに気付かれた。

「なに」
「なんでもない。なんでもない、よ」
 視線に籠もった熱意を誤魔化すように、シェリーは言い流して同じようにして服を脱いだ。勢い余って全裸になってから、羞恥心にまた火照る。ベッドに突っ伏した。
 性的な目で見られていたのは既にわかっていたことだったのに。

(私もそういう風に見ちゃうんだなって思うと、なんか)
 むず痒い。それはもう十代前半の感覚の延長線ではなく、新しい何かであるからして。この情動に名前を付けられなくて、胸が苦しかった。

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