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一 - e
2017 / 02 / 24 ( Fri )
「できないって言うの? 結局口先だけなのね」
「片目だと遠近感がずれるから、私に飛び道具は扱えない」
 ――至極ごもっともな理由があった。
 それでも納得し切れずに、食い下がる。

「だって、あんたのブラインドじゃないの」
「別に私のではない。この建物は多分、季節が移ろう前からここにあった」
「あ、そう……」
 それじゃあ自分では狩りができないくせに、得意げに知識だけひけらかしたの――と突っ込みたいところだったが、思い直した。元から片目だったとは限らないし、誰かに付き添うだけでも知識は身に着く。この人は普段、弓ではなく罠担当をしている可能性もある。

 かくいうセリカもこれまでの狩りの経験は、兄弟について行った数回だけだった。それも公都内にある狩り場だ。的を当てる練習ばかりしていたのも図星だし、あまり人のことをあれこれ言えない。

(なんだか、やる気失くしたわ)
 ――ひとつくらい獲物を手にしてから馬車に帰りたかったのに。
 だからと言って、粘る気力が無い。
 道具を仕舞って背負い直し、帰り道を確認する。御者に伝えた二時間よりもずっと早く戻れそうだし、これでいいのだろうと自分に言い聞かせた。

 それにしても、とふいに青年が口を開いた。こちらをじっと眺める青年の青灰色の瞳は、どこか冷たい印象を与える。

「さくらんぼみたいな頭だな」
 瞬間、セリカはこめかみに青筋が浮かぶのを感じた。
「……初対面の人間をまず見た目から侮辱するのが、この国の礼儀なのかしら」
 努めて平静を保とうとする。が、その試みはすぐに失敗に終わった。

「美味しそうだと褒めたつもりだが。赤黒いさくらんぼは見た目の渋さに反して果肉が甘く、好きだな」
「あんたの食べ物の好き嫌いなんて心底どうでもいいのよッ!」
 ――いけない。
 唾が飛ぶ勢いで怒鳴ってしまった。いくら淑(しと)やかさに欠けることを自覚しているセリカでも、これには反省した。

 確かにこの髪は、母譲りの、滅多にない色合いではある。黒光りする深い赤紫――そう表現するのが一番シャレているのではないかと、自分ではこっそり思っていた。
 今までに果物と比べられたことはない。というより、食べ物に似ていると感じていても誰も面と向かって言っては来ないだろう。
 収まらぬ苛立ちをどうすれば吐き出せるか。紺色の帽子の下からうかがえる茶みがかった黒を見やり、その答えを思い付いた。

「そっちは泥みたいな髪色ね」
「よく言われる。淀んだ川底の土とそっくりだと」
 仕返しのつもりだったのだが、思いのほか青年は平然としていた。それどころか、同情を誘う返しだった。
「け、結構心ないこと言う人と知り合いなのね……」

「そんなものだ。お前もたった今、泥みたいだと言っただろうに」
「あんなの腹いせよ、本気でけなしたいわけじゃないわ。ん、気品に紛れた遊び心っていうか? 野性的でいい色じゃない」
「…………無理して褒めなくても。泥でいい、私は気にしていない」
 呆れたような顔をする青年に対して、セリカはバツが悪くなって小さく舌を出した。適当に思いついたことを口にしただったのを見透かされてしまった。気まずいので、さっさと話題を変える。

「そんなことより、いきなり出てきて何なのよ? 物凄く吃驚したわ。助言を乞うた覚えは無いし。誰よあんた、何様のつもり」
 青年の鼻先に人差し指を突き指して、大袈裟に非難した。否、決して大袈裟ではない。
(乙女を尻餅つかせて驚かせたんだから、弁明くらいするべきよ!)
 改めて強気になり、相手を睨みつける。
 青年は全く怯まないどころか、意外そうに目を見開き、眉を上げた。

「わからないのか」
「はあ? わからないから訊いてるんでしょ。間抜けなこと言わないで」
 激しく言い返してくるのかと思ったら、青年はただつまらなそうな顔をした。何なのだ、一体。何故そんな顔をされねばならないのか。セリカには心当たりがまるでなかった。

「――すぐにわかる」
 それだけ言い捨てると青年はこちらに背を向けた。淀みない足取りで、速やかに木々の間に消えて行く。
 後を追おうだなどとは、勿論セリカは考えなかった。

「変なヤツ」
 嘆息混じりにひとりごちる。変な男、変な国、変な日。無人となった森は、セリカの独り言をことごとく吸収する。
 日が傾きかけている。周囲の大樹の影がいつしか長くなっていた。極め付けは、長々と響くカラスの鳴き声だ。
 胸の内に得も言われぬ物寂しさが広がっていった。
(はあ、帰ろう。受け入れたくない未来から目を背けるのは、もう止めにしよう)
 運命の呼び寄せる方へ――彼女は一歩ずつ、重い足を進めていく。

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